2006年6月29日(木)

「合図があったら、まずは起立一礼して舞台袖の待機スペースへと向かうことになるわ。あなたの前にいる卒業生に続いて舞台へ上がると、足元に敷かれた赤い絨毯の上に0から9までの数字が書かれた金色のパネルが見えるはずだから、前の人が移動したら、自分もそれに続いて次の数字が書かれているパネルまで二歩で移動よ。数字の上で止まっている時には、絶えず身体を王女の方に向けておくということを忘れないで。そして8番の上まで来たら、もう一度礼をして、9番の真上で証書を受け取る。この時は、一礼しなくていいわ。終わったら、素早く4歩後退して再度一礼。グズグズしてると、次の人の写真に写っちゃって、とても格好悪いことになるから気をつけてね」

2回目の学位下賜式予行演習が行なわれているヂュラーロンゴーン大学講堂、午前9時20分。隣の席に座っている友人は、そう言って、1回目の予行演習に欠席した僕に対して入念なアドバイスをくれた。なお、この予行演習は、国王の代理人(プラテープ王女)から直接手渡しで学位を下賜される卒業生に対して出席が義務づけられているもので、学位服(アカデミックガウン)を着なくても良いことになっている。

ヂュラーロンゴーン大学大学院の卒業生のほとんどは、学部生時代にこの学位下賜式(学位授与式) พิธีพระราชทานปริญญาบัตร を体験しているはずだが、外国大学を卒業してタイへとやって来た留学組にとって、それはとても複雑で分かりにくいものだった。東南アジア研究科の外国人卒業生(日本人の僕とラオス人ふたりの計3人)は、案の定、普通では考えられないような失敗を繰り返し、その都度、舞台の袖で卒業生の指導にあたっている大学職員から呼び出された。

「王女殿下の前に歩み出たら、まずは腕の肘から先の部分を真っ直ぐ前方に差し出し、次に手首から先の部分を軽く上に挙げて、殿下への敬意を示さなくてはなりません。決して、手首から手前の部分を上に挙げてはいけません。軽く挙げた手が元の位置に戻ったと同時に、差し出された証書の右側面を掴み、相手に自分の手の甲が見えるように証書を素早く胸元に収めます」

その後も、小学生時代を思い起こさせるような入念な予行演習が約3時間にも渡って繰り返された。

昨日28日、僕は本社で朝一番で行われた会議に出席してから休暇を取って帰宅し、荷造りをして成田空港へと向かった。機材の整備不良のため定刻より4時間25分遅れの午後10時50分に出発したユナイテッド航空 UA837 便は、29日午前3時40分にバンコク・ドーンムアング空港に到着。クルマを運転して空港まで迎えに来てくれた留学時代の友人と久々に再会し、身支度を整えるためプララームスィー(ラマ4)通りにある安ホテルへと移り、大学裏のサームヤーン市場近くで朝食をとって、午前8時半からの第2回学位下賜式(学位授与式)予行演習に参加した。その後、 ナラーティワートラーチャナカリン通りの高層ビル「インペリアルタワー」に入っているスタンダード・チャーターズ銀行へ友人の採用面接のために立ち寄り、セントラル百貨店ピングラーオ店でタイスキの昼食をとってからストレートパーマをかけた。他の友人達と合流し、プーミポン・アドゥンヤデート国王即位60周年に伴う王宮周辺のライトアップを見物してから、ホテル「ザ・ツインタワーズ」にチェックインした。

現在、日本帰国後に正社員として働いている民間企業で、通常の約20倍程度のスピードで任地が変わるという「超高速ジョブローテーション」の真っ只中におり、日々まさに目が廻るような思いをしているが、その僕にとっても、昨日から今日にかけてのスケジュールはあまりにハードすぎるように思えた。それでも、約3ヶ月ぶりに約4年間に渡って親しんできた大学構内へと足を踏み入れ、2年間以上も一緒に勉強してきたクラスメート達と何食わぬ顔で普通に再会できたのだから、郷愁にも似た懐かしさが込み上げてきた。

2006年6月30日(金)

「観光庁の番号を教えてください」

バンコク中心部のアヌサーワリーチャイサモンラプーム戦勝記念塔からタイ北部のミャンマー国境メーサーイへと延びる国道1号線パホンヨーティン通り、パトゥムターニー県バンコク大学ラングスィット校舎前、午後1時50分。友人はカバンからおもむろに携帯電話を取り出して、電話番号案内サービス1133に電話をかけ、続いてタイ政府観光庁にナコーンナーヨック県内の観光情報を問い合わせた。

留学時代、僕はこの友人の「1133&問い合わせ」コンボ攻撃に何度助けられ、そして何度窮地に追い詰められたことか。普通、僕の動向を知るために、記憶の片隅にあるコンドミニアムの名前から電話番号をゲットし、守衛所に問い合わせて「もう帰って来ていますか?どんな人と一緒でしたか?」などと尋ねはしないだろう。

タイ政府観光庁職員の話によると、ナコーンナーヨック県には2ヶ所の観光名所があるそうだ。ひとつは、オンカラック線にあるプラヂュンラヂョームグラーオ陸軍士官学校附属の射撃場とアスレチックコース、もう一つは、ワングタクライ滝とクローングターダーン・ダム。この時、小降りの雨が降っていたため、僕たちはクルマの中にいても楽しめる滝とダムへと向かうことにした。

ワンタクライ滝は、県都から16キロほど離れた国道3049号線沿いにあり、渓流下りなどのアトラクションがあるほか、王族モムラーチャウォングユィング・パンティップボリパット所有の1500ライの土地に多種多様な花が咲いている。徒歩入場ひとり10バーツ、自家用車入場1台(4人まで)100バーツ。外国人料金設定なし。都市部から離れたところにあるため、入場者数は意外にも少なく、子供連れの家族が都会の喧騒を忘れて自然を満喫するのには最適かもしれない。

クローングターダーン・ダムは、世界最長のコンクリート構造のダムとして、プーミポン・アドゥンヤデート国王陛下の指示によって建設された。全長2,720メートル、高さ93メートル、貯水量2億2400万立方メートル。洪水防止を目的とし、カオヤイ国定公園からの水を貯える。ここでは、地元の若者達がピックアップトラックからルークトゥン(田舎演歌)を流しながらビールを飲んでいた。

こうした観光地を簡単に見て回ってから、帰宅ラッシュの中をバンコクへと引き返した。巨大商業複合施設「サヤームパラゴン」で夕食をとり、サヤーム界隈を散策してから、ステーキ・イタリア料理店チェーン「スィップサームリアン」(13 Coins)ラッチャダー店附属の宿泊施設(一泊700バーツ)へと向かった。