「実は・・・・・・父の希望もあって、一度はクリスティアン大学に入ったんだけど、なんか自分には合わないと思ったから、いまの大学に編入したの」
午後8時15分、プララームガーオ通りにある屋外レストラン「タレーバーンゴーク」で、日本人のあいだで「タイの私立大学御三家(グルングテープ大学, ホーガーンカータイ大学, アサンプション大学)」と呼ばれる大学に通っている友人は、自分の過去について少しずつ話し始めた。
私立大学の学生が大学を転々とするのは、タイではよくある話。
23日夜、サーラーデーング通りで日本人の友人たちと飲んでいたとき、日本語学校 Waseda Education Thailand (2003年4月設立)に通っているタイ人に、どう説明したら早稲田大学の素晴らしさと、そこへ留学することの意義を分かってもらえるか、という話になった。さしあたって、その答えを得るためには、タイの私立大学とは何か知っておく必要がある。
不利益を被る人々からの猛反発を食らう可能性があるため、これまでバンコク留学生日記ではタイの高等教育制度に言及するのを極力避けてきた。しかし、日系人材紹介会社ですらタイの大学を正しく理解しておらず、また、日本人の友人からも詳しく取り上げて欲しいと依頼されたため、今回はタイ社会における私立大学の位置づけについて考えてみたい。
タイにおける私立大学の序列は、バンコクの日本人社会でもしばしば話題にのぼる。よく聞くたとえ話に、第一位:グルングテープ大学は日本の早稲田大学相当、第二位:ホーガーンカータイ大学は日本の慶應義塾大学相当、第三位:アサンプション大学は日本の上智大学相当、というものがある。
しかし、タイの私立大学と日本の私立大学とでは、教育研究期間としての▽歴史▽格付け▽入学難易度▽卒業難易度▽カリキュラムの質がまるで違うため、双方を単純に比較することはできない。
日本の私立大学には、長い歴史がある(1890年慶應義塾大学昇格, 1902年早稲田大学昇格)。そのため、日本人のあいだでは私立大学の伝統と格式が広く認識されており、上位私立大学の入学難易度も高い。
タイの私立大学は、つい最近まで准大学という位置づけにあり、正規大学としての歴史がほとんどがない(1984年グルングテープ大学昇格, 1984年ホーガーンカータイ大学昇格, 1990年アサンプション大学昇格)。歴史と伝統で国立大学に大きくおくれをとっているため、タイ人のあいだでは私立大学の歴史と格式が軽んじられている(1916年ヂュラーロンゴーン大学昇格, 1934年ウィチャータンマサートレガーンムアング大学昇格=現在のタンマサート大学)。
また、タイの私立大学は、形式的な入学検定試験を設けている大学もあるが、定員数や合格基準があいまいで、毎年、大量の新入生を際限なく受け入れている。つまり、授業料を払えるだけの経済力があれば、第一志望の私立大学に入ることができる(一部大学の一部学部を除く)。
その背景には、私立大学の切迫した台所事情がある。日本の私立大学は入学検定料(30,000円前後)が貴重な収入源になっており、大学によっては年間予算の25%を超えているが、タイの入学検定料はたったの200-300バーツ。これでは運営資金の足しにもならないため、タイの私立大学は新入生を大量の受け入れて授業料収入を増やそうとしている。各私立大学の入学要件はつぎのとおり。
グルングテープ大学の入学要件 会計学部・経営学部・報道放送学部・法学部・人文学部・経済学部・理工学部1. 総合能力試験(社会科A、タイ語A、時事問題) 2. 英語能力試験(表現と理解力) 3. 数学応用力試験(数学A、日常生活における応用的数学力) |
ホーガーンカータイ大学の入学要件1. 面接試験 2. 入学検定試験については面接試験日に告知する |
アサンプション大学の入学要件1. 平均評定3.0以上または 2. 平均評定2.50以上かつ、高等教育委員会主催の能力検定試験(統一大学入学試験)において、入学志望学部が指定した教科で50%以上の得点をとることまたは 3. 国立大学への入学が許可されることまたは 4. 高等教育委員会主催の能力検定試験(統一大学入学試験)において、英語で60点以上をとることまたは 5. TOEFL 500点以上、または IELTS レベル5以上を所持していること |
トゥラギットバンディット大学の入学要件1. 基礎分析力試験 2. 面接試験(合否は試験日に告知する) < ただし以下に該当するものは筆記試験を免除する> A. 高等専門学校前期課程・工業高等学校・高等専門学校後期課程を卒業した者で平均評定3.0以上の者または B. 高等学校を卒業した者で平均評定2.50以上の者または C. 高等教育委員会主催の能力検定(統一大学入学試験)で数学、英語、タイ語、社会科のどれか一教科で平均点以上をとった者または D. 第二部(夜間)に入学希望の者または E. 地方の出張所に願書を提出した者 |
パッと見では難しそうだが、ちょっとした工夫をするだけで簡単に各大学の入学要件を満たすことができる。
私立大学合格必勝法 <グルングテープ大学>入学試験を受験しに行けばオッケー(合格最低点はかなり低いし、入学定員もない)<ホーガーンカータイ大学>面接試験で学習の意志をアピールすればオッケー<アサンプション大学>地方にある全入状態の国立ラーチャパット大学またはラーチャモンコン大学を受験する<トゥラギットバンディット大学>地方の出張所に願書を提出する
*ただし、一部大学のマスコミ学科や日本語学科には入学希望者が殺到し不合格者も出る |
各私立大学は、自らの威信をかけて「学位」を発行している。その質を維持するために学生を常にふるいにかけ、平均評定 GPA が2.00に満たない学生を容赦なく放校しているから、入学できたところで卒業できるとは限らない。入学生に対する卒業生の割合は、グルングテープ大学工学部で4:1、ホーガーンカータイ大学とアサンプション大学経済学部3:1程度といわれている。
不幸にも退学を余儀なくされた学生は、より格下の大学へと編入していく(一部の単位は互換性がある)。グルングテープ大学の学生によると、① GPA が2.00になる前に自主退学し、②単位の互換性が高く評定も甘いラングスィット大学に編入して、③グルングテープ大学と互換性のある単位を集め、④卒業単位が近くなったらグルングテープ大学に返り咲けば、⑤グルングテープ大学の学位を取得できる(グルングテープ大学は一度まで復学を認めている)。ところが、そのように上手くいくの希で、たいていは転出先の大学で学位を取得するという。なお、ラングスィット大学からの転出先には、トゥラギットバンディット大学やスィーパトム大学がある。
このようなタイ独特の大学事情があるため、入学難易度だけで私立大学をランク付けするのにはムリがある。各大学が発行する学位の格は、▽卒業難易度▽放校時の転出先▽卒業後の進路などから総合的に判断しなければならない。・・・・・・ここで僕独自のタイの私立大学ランキングを公表するのも面白いが、客観的に数値化できないものをフィーリングだけで順序づけても無意味だからやめておく。
もし自分が日系企業の採用担当者なら、私立大学を卒業したタイ人を積極的に採用する。論理的思考力が求められる仕事には国立大学の卒業生を充てるが、▽都会的かつ理知的な振る舞い▽豊かな想像力▽機敏な行動力が求められる職種には私立大学の卒業生の方が向いている。ちなみに、日系企業に強いのはアサンプション大学(語学力があり、日本文化への親和性も高い*ため使いやすい, ただし西洋かぶれでタイ語やタイ史には弱い)、ホーガーンカータイ大学は私立大学トップの就職内定率86.27%を誇り、グルングテープ大学も人材の質には定評がある。
* アサンプション大学の卒業生(英語専攻を除く)は、 TOEFL 400 点代後半から500点代前半程度の英語力がある(550点には満たない)。
また、「タイの私立大学御三家」を一流大学とする場合、少なくとも以下に掲げる大学すべてを一流としなければならない。
| ヂュラーロンゴーン大学、タンマサート大学、ガセートサート大学、マヒドン大学、スィンラパーゴーン大学、チアングマイ大学、コーンゲン大学、ソンクラーナカリン大学、プラヂョームグラーオ工科大学、スィーナカリンウィロート大学、ラームカムヘーング大学 |
・・・・・・日本における上位私立大学のスゴさを理解してもらうには、最低でもこの程度のことをふまえたうえで、本人にも受け入れやすいような表現を選んで丁寧に説明していくしかない。
タイで大学生をするのも楽じゃない。少し手を抜くとすぐに放校されてしまうし、高校生のように中間テストもある。テスト期間中に遊び歩いてばかりいる友人も、いつどうなるか分からない。
昼すぎ、スィーロム通りの珈琲屋へ出かけてから、プララームガーオ通りにある屋外レストラン「タレーバーンゴーク」で友人と夕食をとり、さらに別の友人たちも加わりラッチャダーピセーク通りにある Pump Up! へと繰り出した。
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