2010年5月24日(月)

この記事は、タイの政情について解説するように指示されることが増えてきたため、自分の考えをまとめようと思い書いたものです。私と同じような立場の方々のお役立てればと思い、ブログに掲載いたしました。

<img src="http://www.diaryinbangkok.com/images/2010/20100524.jpg" width="300" height="169" align="right" />“ถ้าพวกคุณยึดอำนาจ พวกผมเผาทั่วประเทศ เผาไปเลยพี่น้อง ผมรับผิดชอบเอง แล้วใครจะจับใครจะอะไรมาเอากับผมนี่ ถ้าคุณยึดอำนาจ เผา”
「もしあなたたちが権力を収奪したら、わたしたちは国中に火をかける。同志たちよ、燃やしてしまえ! 責任は私がとる。逮捕しようしたり危害を加えようとする者がいるなら、このわたしのところまで来るがいい。もし権力を収奪したら燃やす!」

これは2010年1月にヂャンタブリー県カオソーイダーオで行われた反政府市民集会におけるナッタウット・サイグアの発言である。ナッタウットは、クーデターで失脚したタックスィン・チンナワット元首相(2001-2006)の妹の夫で、ソムチャーイ・ウォングサワット内閣(タックスィン派, 2008年)では首相府報道官を務めた。人民力党が選挙違反で非合法化され与野党が逆転すると、反政府派の赤服=国家反独裁民主共同戦線(UDD: National United Front of Democracy Ageinst Dictatorship)の事務局長として反政府集会を組織・主導した。

今回の政情不安に対する私の理解はつぎの通り。

「タイの国王は、大多数の国民からの熱狂的な支持を背景に、立憲君主としては他に類を見ない強力な政治的影響力を持っています。しかし82歳と高齢なうえ、現在入退院を繰り返しており、万一のことがあれば王位継承問題で大混乱に陥り、現在の社会体制が根底から覆るかもしれません。今回の騒動は、それを見越した有力者達による前哨戦の一部なのです。タイの近代史とは有力者同士による権力闘争の歴史であり、今回も王室(サイアムセメントやサイアム商銀)を頂点とする旧財閥と、タックスィン元首相(AISなど電気通信事業会社)を頂点とする新興財閥による権力をめぐる攻防にすぎません。一部メディアがタックスィン元首相をあたかも社会民主主義の代弁者であったかのように褒め称え、今回の政情不安を農村部の貧しい人々による民主化運動と伝えているので錯覚してしまいがちですが、タックスィン政権はむしろ権力の独占と民主主義の抑圧を図った開発独裁の典型でした。その後、タックスィン元首相は旧財閥派による2006年のクーデターで失脚しましたが、主要な支持母体として貧民協会(サマッチャーコンヂョン)を抱え、ヒトラー顔負けの巧みな大衆扇動によって貧困層からの絶大な支持を確立していたため、現在でも国家反独裁民主共同戦線を標榜する市民団体の象徴的地位にあります。はてさて、その市民団体が本当に目指しているものは何でしょう? 言うまでもなく、それは社会民主主義の実現なんかではなく、開発独裁の復活による旧財閥の徹底排除と新興財閥による利権の私物化に他なりません。この争乱はもう、新興財閥が衰退して、財閥と呼べなくなるまで続きそうです」

莫大な経済力を背景に貧農を雇い入れて反政府「市民」集会を組織し、テロを使唆する反社会的な言動を公然と行い、独裁政権を復活させるために都市機能を麻痺させた国家反独裁民主共同戦線を支持する理由がどこにあるだろうか。

5月16日にタックスィン派の個人と企業106の銀行口座が凍結されたことから、今後タイの政情不安は沈静化に向かうかもしれない。