タイ映画「ヂーヂャーのコワ可愛いドゥー」

午後4時半、高架電車のサヤーム駅で、タイ現地法人の得意先、トヨタ自動車アジア太平洋で生産技術部長を務めている幹部の子息たちと待ち合わせて、サヤームスクウェアにあるタイ料理店「スィーファー」の跡地にできた日本料理屋「大戸屋」で夕食をとった。午後6時20分、高級百貨店サヤームパラゴンの6階にある映画館で「ヂーヂャーのコワ可愛いドゥー」を鑑賞した。あらすじはつぎのとおり。

ドゥー(ヂーヂャー=ヤーニン・ウィサミッタナン)は、これまで愛とは無縁な人生を歩んできた。父に死なれ、母に捨てられ、彼氏はいま目の前で浮気を働いている真っ最中だった。演奏が終わるや否や、ドラムのスティックを放り投げて殴りかかったところ、騒動の責任を問われてパブのバンドから解雇されてしまった。

翌日、自棄酒を飲みながら街中をフラついていたところ、突然、ローンコーン(ルングタワン, アジア太平洋女子ボディービルダー選手権優勝)の刺客たちにさらわれそうになった。特別なフェロモンを持っている美女たちをさらって監禁し、その涙から特別な効果がある香水を精製している一味だった。ぎりぎりのところで、さらわれた恋人パーイを取り戻すべくチャンスを窺っていたサニム(カズ=パトリック・タン, WKA チャンピオン)によって助け出された。

ドゥーはサニムのアジトで、ローンコーンへの復讐心に燃えるキームー(ムイ=セーンデーング, Battle of the Year 2004 銅メダル)、キーマー(ヘース=ソンポング・ルートウィモンガセーム, 北部 B-Boy 3期連続優勝・全国 B-Boy 4期連続5位入賞)の兄弟から「酔拳の奥義」を伝授され、自分の身を守る戦いのなかで「真の愛」を知ることになる。

タイのアクション映画では、パノム・イーラム主演のオングバーク(2003年)、トムヤムグング(2005年)、オングバーク2(2008年)などが日本で知られているが、ここで本作品をそれらと比較して云々するのはやめておきたい。

タイの映画は、映画館に行かずとも、キャストを眺めるだけでおおよそのストーリーが想像できる。ヂーヂャー=ヤーニン・ウィサミッタナンは、日本のヤクザとタイのマフィアのあいだの抗争を描いたアクション映画「チョコレート」(2008年)で主人公のセンの役を演じている。その仲間たちも、現役の格闘家たちとくれば・・・・・・セリフがほとんどない格闘ゲームのようなストーリーと、だいたい相場は決まっている。

ただ、恋愛映画「夢・恋・恥・吻」(2008年)のラーセーン・リムトラグーンがこの作品の監督を務めているのは意外だった。アクション映画に恋愛の要素を取り入れることの必要性に、ようやく配給元が気づいたのかもしれない。でも、なぜ誘拐された美女たちの救出を警察に任せず自分たちでやらなければならなかったのか、なぜ日本の時代劇のように敵がただヤられるだけのために接近してくるのか、なぜドゥーがあんなに歳の離れているサニムに靡くのかなど、設定に違和感が残り、いまひとつ感情移入をすることができなかった。

ヂーヂャー=ヤーニン・ウィサミッタナン主演の映画は、いずれもタイでビミョーな評価を受けているが、タイにおけるアクション映画の発展とともに、今後、能力を発揮する機会に恵まれることを期待したい。

追記:どうしてこんな邦題になったのか皆目見当がつきませんが、日本ではチョコレートソルジャーというタイトルが付けられて、2010年の大阪アジアン映画祭で上映されたそうです。タイの映画は、たいてい原題からとんでもなくかけ離れているトンチンカンな邦題が付けられる傾向にあるようです。

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ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。