ハノイの道路が渡れれば 世界中の道路を横断できる (タイ人とのベトナム旅行2)

「それにしても、あれって大袈裟ではなかったのね」

日本人的な感覚からしてみると、タイの交通事情ほど無茶苦茶なものはないように思えるかもしれないが、ノック航空の機内誌にはタイ語で「ハノイの道路が渡れれば、世界中の道路を横断できる」と書いてあった。それを見たときは、旅行情報誌にありがちな誇張表現だろうと高をくくっていたが、いざ実際にハノイの市内にある通りを渡ろうとしたところ、その意味の深さというものをイヤというほど思い知らされることになった。

主要な交差点であるにも関わらず、道路に信号機はなく、しかも二輪車が絶え間なく滝のように押し寄せて来てくる。チャンスを見つけて渡ろうとすると、今度は自動車が車線を無視して猛スピードで接近してきて僕たちの行方を遮る。こんな状態が続いていたのでは、この道路を渡るなんてとてもできそうにない。

午後1時、 Thánh 通りにあるベトナム料理店 Seasons で昼食をとった。旅行ガイドブックの地球の歩き方に掲載されているハノイ市内にあるレストランの一覧で上のほうに大きく取り上げられているためか、客は日本人ばかりだったが、味の方はまあまあだった。なかには、ベトナム人の男性を連れている大柄な日本人の女性観光客の姿も見られた。ただそれだけといった印象で、友人が持ってきていたタイ人向けのガイドブックでは市内にあるベトナム料理店のひとつといった扱いにすぎなかった。午後2時、ショッピングモールの Tràng Tiền Plaza へ行って土産物を買い漁った。とは言っても、土産物の種類はさほど多くない。物価もバンコクと同じくらいだったが、それなりに土産物らしいものを調達するのには勝手が良かった。夕方、ガイドブックに載っている店に片っ端から電話をかけて予約を入れようと試みたが、どこも席が埋まっていたため、チュックバック湖の畔にある料理店で年越しのディナービュッフェを食べることにした。

ふたつの音楽を同時に聴くのは難しい。店内のスピーカーからは西洋式のニューイヤーソングが、客席のすぐ真上にある液晶テレビからはラップミュージックがそれぞれ同時に流されていたため、気分が悪くなって滞在中のホテル Sofitel Plaza Hanoi へ引き返してベッドに横になった。リモコンでテレビのチャンネルを切り替えていたところ、中国の中央电视台4チャンネルが放送している歌番組の華やかさに心を奪われた。チャンネルを何度も切り替えて日本の NHK や韓国の Arirang TV と比較してみたが、今年の中央电视台4チャンネルの歌番組は抜きん出て素晴らしい出来栄えだった。

「室内に屋外の騒音を持ち込むの、お願いだからやめてくれない?」

午後9時、ホテル Sofitel Plaza Hanoi の1801号室で、撮りためたビデオを眺めていたところ、友人が不快感をあらわにして言った。クルマの警笛は、ベトナムでは自分が接近していることを相手にアピールすることで、もらい事故に巻き込まれるのを防ぐために使われているが、タイでは不満や敵意をアピールするときに使われている。そんな、タイ人的には一触即発の合図ともとれる音を何時間も聞かされれば、無茶苦茶な交通事情に慣らされているタイ人でもイライラとするのかもしれない。

午前零時、ホテルの20階にある BAMBOO BAR の展望席からチープなハノイの夜景を眺め、カクテルとともに新年を迎えた。

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ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。