タイ人娼婦の誘惑に決して惑わされてはいけない

20060315@2x

「わたしたち3人、きょうは早めに仕事を上がらせてもらって、これからコロシアムへ行こうと思っているところなんだけど、もし良かったら一緒にどう?」

ありがちな日本人観光客であれば、逆ナンされた、異文化交流の絶好のチャンスと言って、うれしさのあまり思わず小躍りしてしまいそうなシチュエーションだが、果たして本当にそう易々と喜んで良いものだろうか。

午後11時半、夜の繁華街ソーイ・カウボーイにあるゴーゴーバーの Rawhide で、友人の日本人男性とビールを飲みながら、これまで日本人のあいだで語られてきたタイの真偽について意見を戦わせていたところ、ひとりの全裸の娼婦が声をかけてきた。娼婦は、ステージにあるステンレス製のスタティックポールに手をかけて、赤く薄暗い照明を全身に浴びながら、屈託のない笑顔で身体を左右に揺らしていた。

タックスィン・チンナワット警察中佐は、退廃しきっているタイの社会の綱紀粛正を主要な政策課題として掲げ、議会によって首相に指名された2001年からの5年間で、その対応策を矢継ぎ早に実行してきた。なかには国際的な非難を浴びた人権軽視の過激な政策もあったが、タイの国内には社会全体を良い方向へ導いているといった見方もある。なかでも性風俗施設であるゴーゴーバーは、社会的退廃の最たるものとして警察による重点的な取り締まりの対象になり、店の経営者たちは娼婦に全裸で踊らせるのをやめ、水着を着せるなどの緊急避難的な措置を講じて、外国人の客を繋ぎとめようと知恵を絞った。

この通りにあるゴーゴーバーの baccarat は、1階の天井がガラス張りになっている上下2層構造のステージを採用しており、1階では水着を着用している不細工極まりない娼婦が気怠そうに身体を動かしているだけだが、2階にいる比較的マシな容姿をしている全裸の娼婦を下から覗き込むことができる店として、日本をはじめ世界中からやってくる観光客たちのあいだで知られている。もし警官隊が踏み込んできたら、1階で踊っている娼婦たちが時間を稼いでいるあいだに、2階にいる全裸の娼婦たちをすぐ隣にある小さな隠し部屋へ退避させて、2階へ踏み込まれる前に着衣を整えさせることで摘発を免れる手はずになっているという。

ところが、ゴーゴーバーの Rawhide では、2001年のバンコク留学以来はじめて見る、もっとも過激なショーの数々が半ば公然と繰り広げられていた。それらは、女性器でソーダの瓶を開ける芸(股間の下に手を回してあらかじめ開栓されている蓋を開けるトリック)をはじめ、女性器から発射した吹き矢を天井に吊してある風船に刺してを割る芸といった、これまで「むかしのタイではこんなショーもあったんだよ」と聞かされてきたような伝説の芸ばかりだった。

ステージで踊っている娼婦たちの出身県について、100バーツで購入したハイネケンビールの350ミリリットル入りの小瓶を片手に持ちながら、いっしょに来ていた友人の日本人男性と賭けをしてみた。負けたほうが娼婦に80バーツのコーラをおごる約束になっていた。僕はタイ南部、友人はタイ東北部と予想したが、実際に席へ呼んで話を聞いてみたところ、コーラート(ナコーンラーチャスィーマー県)出身の23歳で、名前を「ヌット」と言った。コーラートは、人口274万人のタイ第2の都市で、タイのなかでも特に貧しい東北部(イーサーン地方)の玄関口として知られている。賭けに負けて、この娼婦にコーラを奢らされる羽目になった。

数十分後、このような経緯で知り合った娼婦たちからディスコの Colosseum へ行こうと誘われた。

ディスコ Colosseum は、スクンウィット通りとトーングロー通りが交差するT字路のすぐ近くにある典型的なイーサーン館で、地方からやってきた出稼ぎ労働者(月収6,000バーツ程度)や下級娼婦(月収7,000バーツ程度)たちからの根強い支持を得ている。ラッチャダー8街路にある Hollywood や Dance Fever をはじめ、ペッブリー通りとトーングロー通りの交差点付近にある Bossy などと同じカテゴリに属しており、いずれも田舎演歌のルークトゥンを流したり、下品なお笑いショーの時間を設けたりしているといった共通の特徴がある。都市部に住んでいる一般的な会社員(月収20,000バーツ程度)や大学生たちからは「田舎臭くてヘボい」といった理由から忌避されてるいるため、これらのディスコへ行ったところで、イケてる客を見つけることはまず期待できない。

イヤだ。絶対に行きたくない。酒が回りはじめていたこともあって、ただでさえ席から立つことが億劫になっているうえ、こんなくだらないことのために帰宅時間を遅らせる訳にはいかない。そんなことに貴重な時間をムダに費やすぐらいなら、その時間を有効に活用して、残りわずかのバンコク生活を少しでも有意義なものにしておきたい。娼婦の誘惑に乗りたくない理由は、それ以外にもまだたくさんある。

娼婦の誘惑に乗りたくない理由

  1. タイ東北部出身の娼婦たちが集まっているイーサーン館へ行くということは、自分がヘボいと周囲に対して大声で触れて回るようなものだ。特別な理由もないのにそんなところへ出かけるなんて、あまりにも恥ずかしすぎる。
  2. 世間一般のタイ人男性から女性として見なされていない娼婦と行動をともにすることで、世間一般のタイ人たちからの失笑を買い、軽蔑の対象とされてはかなわない。最悪の場合、「マトモな友人」を失うことにも繋がりかねない。
  3. タイにおける娼婦たちの薬物汚染とエイズ感染の比率は極めて高い。もし親しくなって、自分の部屋に違法な薬物を持ち込まれ、そこへ警察が踏み込んできたら一巻のお終いだ。それに、オンナでないものにエイズを染されたとあっては、それこそ人生が目も当てられないほど惨めなものになってしまう。
  4. 娼婦にとっての男性客とは、すなわち、限度額がなく、返済義務もないクレジットカードのようなものだ。娼婦と出かければ、オトコのほうは当然のように費用の全額を負担させられることになる。そんなのは、友達関係でも何でもない。そもそも、娼婦とのあいだに「恋愛関係」なんか成立しない。あるのは有償の労働契約だけだ。まかり間違って、日本の連絡先なんか教えてしまおうものなら、毎日のように資金援助の要請がくるのは目に見えている。オトコとして、単なる「金ずる」として利用されることほど惨めなことはない。
  5. ゴーゴーバーの娼婦たちは、中等教育(高校)すら終えていないことが多く、マトモなタイ語も書けなければ、タイについての知識も驚くほど乏しいため、行動をともにしたところで有益な情報が引き出せることはまず期待できない。しかも、物事の道理を理解せず、常人では考えられないような突飛な行動を繰り返すため、ただ関わっているだけで、ものすごいストレスを抱え込むことになる。
  6. ほとんどの娼婦には出産の経験があって、すでに子供がいる。しかも、能力的、学歴的、労働観的に、売春以外のまっとうな職に就くことができないため、経産婦が恋愛の対象となり得るのかどうかという問題のまえに、まかり間違えて結婚なんてしようものなら、娼婦本人のみならず、その子供や、実家がある田舎で子供の面倒を見てくれている親族など、数多くの人々を自分ひとりで養っていかざるを得なくなる。

いずれも、シリーズ「微笑みの国タイランドの厳しい現実」で詳しく扱っております。

娼婦の誘惑に乗ったところで、良いことなんて本当に何もない。いまになって思い返してみれば、留学初期の段階では上記のような娼婦を取り巻く特殊な事情について知識がまったくなかったため、冒頭に示した「ありがちな日本人」のような発想でタイ人の娼婦と交際していた可能性だって十分にあった。そう考えてみると、タイへ来て語学留学をはじめるまえに、現役の大学生を中心とした交友関係をあらかじめ築いておき、大学院に在学している期間中も大学生や大卒以上の人たちと付き合うようにしてきたのは、本当に正しい選択だったと思う。おかげで、娼婦の誘惑につけいられる隙を作らずに済んだ。もし仮に、自分に十分な数の友人がいなかったら、きっと娼婦の誘惑に負けて、今頃はとんでもないことに巻き込まれていたに違いない。ホントウに危ないところだった。よかった、よかった。

本帰国を間近に控え、ここのところ友人の日本人たちと酒を飲みに出かける機会が急増している。先日来、語学留学時代の初期にあったような「夜のゴールデンコース再び」といった内容の日記が続いているのは、すべてこのような事情によるものだ。

きょうの午前中の便で滞在先のプーゲットからバンコクへ戻り、バンコク・ドーンムアング国際空港で友人と別れてからひとりでタクシーに乗っていたときに、別の友人から電話があって、複数の会社で常勤社員として働いていたのが発覚して懲戒免職の処分を受けたという知らせがあった(後日撤回されている)。その後、日本人の友人からインド料理をご馳走になり、ナーナー4街路とソーイ・カウボーイにあるゴーゴーバーへ出かけた。

  • YUKIO

     いつも楽しく読ませていただき有難うございます 卒業されて日記が終わるのがさびしいですが、社会に出られてからも在タイ日本人を鋭い感覚で語られる事を期待します。
     さて娼婦の実態に対しての捉え方は自分が数十年前アジアの国々で感じたこととまったく同じで、ケイイチ氏の思考と自分の若かりしころの思考がダブって何か昔のアルバムを一人で眺めているようで楽しんでいます。日本人の多数はここタイではスターになって皆さんからちやほやして欲しいのではないでしょうか?でも普通の市民は日本人だからと言って誰もちやほやしない、だから特殊な環境(水商売)の人々と接するのが心地良い、だから益々接近していく。よくあるパターンなのではないでしょうか、やはり男でも女でも金銭的に利害関係に無い友人関係を築かなければ、お金が絡んでの人間関係は簡単だけど。。金の切れ目何とやらでは? 少し寂く思います。

  • YUKIO

     いつも楽しく読ませていただき有難うございます 卒業されて日記が終わるのがさびしいですが、社会に出られてからも在タイ日本人を鋭い感覚で語られる事を期待します。
     さて娼婦の実態に対しての捉え方は自分が数十年前アジアの国々で感じたこととまったく同じで、ケイイチ氏の思考と自分の若かりしころの思考がダブって何か昔のアルバムを一人で眺めているようで楽しんでいます。日本人の多数はここタイではスターになって皆さんからちやほやして欲しいのではないでしょうか?でも普通の市民は日本人だからと言って誰もちやほやしない、だから特殊な環境(水商売)の人々と接するのが心地良い、だから益々接近していく。よくあるパターンなのではないでしょうか、やはり男でも女でも金銭的に利害関係に無い友人関係を築かなければ、お金が絡んでの人間関係は簡単だけど。。金の切れ目何とやらでは? 少し寂く思います。

  • AKI

    タニヤ・スクムウイット地区にある日本人カラオケ経営者、本番有りのマッサージ店経営者、その他の風俗産業経営者にとってはタイは魅惑の国であらなくてはいけないと思うよ。娼婦やSEX産業に従事する女性を美化しなければならない。商売にならないからね。

    タイにおいて外国人と一緒に歩くことは女性にとって売春していると思われていると気に掛けていると女性に言われたときは少し悲しい気分になったが、それを思うタイ人の目も貧しいと感じる。日本国内において外国人と付き合う日本人女性を快く思わないのと同じ事かもしれない。実際、海外で暮らす前は、そう感じていた。嫉妬・妬みなんだろうね。

  • AKI

    タニヤ・スクムウイット地区にある日本人カラオケ経営者、本番有りのマッサージ店経営者、その他の風俗産業経営者にとってはタイは魅惑の国であらなくてはいけないと思うよ。娼婦やSEX産業に従事する女性を美化しなければならない。商売にならないからね。

    タイにおいて外国人と一緒に歩くことは女性にとって売春していると思われていると気に掛けていると女性に言われたときは少し悲しい気分になったが、それを思うタイ人の目も貧しいと感じる。日本国内において外国人と付き合う日本人女性を快く思わないのと同じ事かもしれない。実際、海外で暮らす前は、そう感じていた。嫉妬・妬みなんだろうね。

  • > YUKIO さん

    いつもバンコク留学生日記をご覧くださり、ありがとうございます。日本で働きだしてからというもの、これといったタイ関連のイベントもないものですから、新鮮な情報を何も発信できずに残念に思っています。しかし、(たぶん他の会社もそうだと思いますが)僕が勤めている会社のタイの現地法人でも、タイの文化を知らないが故の大失敗というのがいろいろとあるようですので、バンコク赴任後にでも「バンコク駐在員日記」を書こうかと思っています。・・・部下の心を掌握するためとはいえ、この極端な階級社会で、社長が中卒労働者の前で箒を持って掃除を始めちゃうっていうのは絶対にヤバイですからね。これじゃ、社長の威厳と指導力が低下するばかりです。あはは。

    娼婦に関しては、僕も YUKIO さんと考えを等しくしています。どうやら、彼らは性風俗と異文化理解という二つの問題を同時に抱え込んだ結果、訳の分からない結論を導き出してしまったのではないかと思います。ちゃんと、「性風俗」と「異文化理解」という要素に分けて、ひとつひとつ検討してもらいたいと思っています。

    YUKIO さんが指摘しておられるとおり、これらの問題は、おそらく「ここはタイだから・・・」から始まる逃げ口上と、誤ったタイ文化への思い込みがあるのではないかと思います。まったく困ったもんですよねえ。

    > AKI さん

    AKI さんが指摘しておられるとおり、風俗店の経営者は、僕がこの日記で繰り返し指摘してきたような「誤ったタイの常識」を浸透させなくては、商売が成り立たなくなってしまうと思います。でも、僕がより問題だと思うのは、長年タイに住んでいる風俗店の経営者でもない一部のフツウの日本人のあいだに、こうした錯覚と思い込みが蔓延っており、それに未だに気づいていない人が多数存在するという点にあります。

    また、外国人男性と一緒に行動しているタイ人女性が、フツウのタイ人からのような目で見られるか、という点についてもご指摘の通りだと思います。しかし、だからといってタイ人の目が貧しいとは思いませんし、嫉妬や妬みといったものでもないと思います。おそらく、「このタイ民族の恥が! タイ民族の風上にも置けないゴミめ! 目障りだからさっさと失せてくれ」くらいにしか思われていないんじゃないでしょうか?

    僕は大切な友人達に「私は売春なんてしていない」などと弁解させるのも気の毒だと思っているものですから、最初から売春をしなくても良い(ってゆうか売春なんてするはずがない)階層の友人と付き合うことにしています。なにより、その方がシンプルですし、分かりやすくて良いですからね。

  • > YUKIO さん

    いつもバンコク留学生日記をご覧くださり、ありがとうございます。日本で働きだしてからというもの、これといったタイ関連のイベントもないものですから、新鮮な情報を何も発信できずに残念に思っています。しかし、(たぶん他の会社もそうだと思いますが)僕が勤めている会社のタイの現地法人でも、タイの文化を知らないが故の大失敗というのがいろいろとあるようですので、バンコク赴任後にでも「バンコク駐在員日記」を書こうかと思っています。・・・部下の心を掌握するためとはいえ、この極端な階級社会で、社長が中卒労働者の前で箒を持って掃除を始めちゃうっていうのは絶対にヤバイですからね。これじゃ、社長の威厳と指導力が低下するばかりです。あはは。

    娼婦に関しては、僕も YUKIO さんと考えを等しくしています。どうやら、彼らは性風俗と異文化理解という二つの問題を同時に抱え込んだ結果、訳の分からない結論を導き出してしまったのではないかと思います。ちゃんと、「性風俗」と「異文化理解」という要素に分けて、ひとつひとつ検討してもらいたいと思っています。

    YUKIO さんが指摘しておられるとおり、これらの問題は、おそらく「ここはタイだから・・・」から始まる逃げ口上と、誤ったタイ文化への思い込みがあるのではないかと思います。まったく困ったもんですよねえ。

    > AKI さん

    AKI さんが指摘しておられるとおり、風俗店の経営者は、僕がこの日記で繰り返し指摘してきたような「誤ったタイの常識」を浸透させなくては、商売が成り立たなくなってしまうと思います。でも、僕がより問題だと思うのは、長年タイに住んでいる風俗店の経営者でもない一部のフツウの日本人のあいだに、こうした錯覚と思い込みが蔓延っており、それに未だに気づいていない人が多数存在するという点にあります。

    また、外国人男性と一緒に行動しているタイ人女性が、フツウのタイ人からのような目で見られるか、という点についてもご指摘の通りだと思います。しかし、だからといってタイ人の目が貧しいとは思いませんし、嫉妬や妬みといったものでもないと思います。おそらく、「このタイ民族の恥が! タイ民族の風上にも置けないゴミめ! 目障りだからさっさと失せてくれ」くらいにしか思われていないんじゃないでしょうか?

    僕は大切な友人達に「私は売春なんてしていない」などと弁解させるのも気の毒だと思っているものですから、最初から売春をしなくても良い(ってゆうか売春なんてするはずがない)階層の友人と付き合うことにしています。なにより、その方がシンプルですし、分かりやすくて良いですからね。

ABOUTこの記事をかいた人

2001年に金融機関の社内SEを辞めてタイへ渡り、タイ国立ヂュラーロンゴーン大学文学部が開講している外国人のための集中タイ語講座、インテンシブタイ・プログラムを修了しました。その後、アメリカ・ロサンゼルスにおける語学留学を経て、2006年にヂュラーロンゴーン大学大学院の東南アジア研究科修士課程を修了。以来、機械部品商社の海外営業、生産設備商社の海外営業を経験し、現在は機械メーカーの国内営業部門で海外現法向けの部品輸出を担当しています。