ICチップ搭載のあたらしい国民IDカード

「ふっふっふ。これをゲットしようと、年が明けるのを首を長くして待っていたのよ。 IC チップが搭載されている新型の国民 ID カードのためなら、これまでお世話になってきた旧式の国民 ID カードにも消えてもらいます。有効期限がまだ3年も残ってるけれど、どうしても欲しいのだから仕方ないでしょう。それに証明写真も気に入らなかったから、ちょうどいいわ。ほら、目が上の方を向いていて、ちょっとオカシイ感じになっているでしょう?」

午前11時半、高架電車パヤータイ駅の前にあるラーチャテーウィー区役所で、友人は満面の笑みを浮かべながら One Stop Service と書いてある扉を開いた。

20060117-2@2x「午前中の受付は終了いたしました。午後の部も、すでに34人の予約が入っています。けっこう待つことになるとは思いますが、とりあえず予約だけでも入れておきますか?」

いかにも公務員になりたてといった雰囲気の男性職員が、とても丁寧な口調で友人に言った。やむなく、高架電車アヌサーワリーチャイサモーラプーム駅(戦勝記念塔駅)の前に新しくできたばかりのショッピングモール Century へ行って、鶏料理チェーン店 Chester’s Grill で昼食をとりながら午後の業務再開を待った。

20060117-3@2x「公務員の勤務態度、この数年でかなり変わったと思わない? 以前はみんなブスッとしていたのに、今ではまるでサービス業の接客員みたくなってるもの。仕事が遅いところは相変わらずだけどね」

行政サービスの腐敗と非効率に世論の関心が集まり、タイ首相のタクスィン・チンナワット警察中佐は2003年末、大規模なリストラや恩給の廃止などの公務員制度改革を次々と打ち出した。公務員からの猛烈な抗議によって、結局この改革は骨抜きに終わったが、それでも「現場の意識をドラスティックに変える」という別の目的はなんとか果たされていた。

午後1時15分、ふたたびラーチャテーウィー区役所にある One Stop Service のオフィスへ戻り、番号札を受け取ってから椅子に座った。午後1時40分、最初のカウンターで、15歳のおかっぱ頭の頃から数年前に撮影されたすべての顔写真を、本人確認のために照合した。午後2時10分、顔写真の撮影を待っている人々の列に加わるよう指示を受けた。午後3時、ようやく指紋の採取と顔写真の撮影の順番が回ってきた。国民 ID カードが発行されたのは午後3時20分すぎだった。

新型の国民 ID カード(バットプラヂャムトゥワプラチャーチョン)では、旧式の国民 ID カードにあった宗教と血液型の欄が削除され、代わってそれぞれの項目に英語が併記されるようになった。 IC チップには、宗教、血液型、指紋形状(両手親指・右手人差し指)、最終学歴(教育機関名と学年)、職業(会社名と職位)、家族構成(親兄弟の氏名と国籍)など、さまざまな個人情報が登録されている。将来的には、公的保険や30バーツ医療制度のカードも、この新型の国民 ID カードに一本化される予定になっている。

昼前、ラーチャテーウィー区役所で友人の国民 ID カードが発行されれるまでの流れを見学してから、スィーロム通りにある珈琲屋へ行って別の友人と調べ物をした。夜、スクンウィット22街路にある大衆居酒屋「栄ちゃん」でさらに別の友人と飲んだ。

きょうは、とても良いことがあった。午前11時頃、ヂュラーロンゴーン大学大学院の東南アジア研究科の研究室から電話があって、規定以上の成績で修了に必要な単位数を満たしたという知らせを受けた。これまで山あり谷ありだったタイ留学生活も残りわずか。担当職員によると、来月あと1回だけ研究室に顔を出せば、それで修了が確定するという。

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ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。