現地採用として働くにあたっての重要な心構えについて

午後8時40分、スクンウィット53街路にある格安日本式居酒屋「いもや」で、語学留学時代(2002年)の友人の日本人と久々に再会した。連日の激務にもかかわらず、いつになくイキイキと近況について語ってくれた。

この友人は、この1年間であたらしい職場にも慣れ、大手旅行代理店の現地法人で働く現地採用者として、タイ人の同僚たちと慌ただしい毎日をすごしている。職場での公用語は英語とされているが、実際にはほとんどの場面でタイ語が使われているという。転職したばかりの頃は、タイ語で意思の疎通を図ることができないレベルだったが、同僚たちと話をしているうちにしだいに上達していった。語学留学時代にもう少し身を入れてタイ語を勉強していれば、もしかしたら仕事の負担を軽減できていたかもしれないと、後悔することもあるという。

こう書くと失礼になってしまうかもしれないが、月給20,000バーツという日本人現地採用者の平均にも満たないような給料でも、忙しすぎてカネを使う時間がないこともあって、何不自由のない生活ができているという。もし転職をするなら、つぎはタイ資本の企業に挑戦してみたいと話していた。

この話を聞いて、ココロが少し洗われたような気がした。バンコクには、さまざまな理不尽に耐えられず、時間の経過とともに偏屈になってしまう日本人がそれこそ掃いて捨てるほどいるが、僕の友人はそうならなかった! タイ人の同僚たちを見下すこともなく、それこそタイ人の力を借りながら着実に実力を蓄えていっている。現地採用としての最初の1年半をこれだけ有意義に過ごすことができれば、つぎの1年半もきっと充実した日々を送ることができるだろう。

バンコクの日本人社会は、所得格差という深刻な社会問題に直面している。しかも、現地採用という雇用形態は、年功序列的な賃金体系ではないため、歳をとればとるほど個人のプライドが歪んでいくようになる。特に、タイに甘い幻想を抱いて移住してきてしまった日本人たちは、それこそ本当にひどい目に遭っている。日本国がいかに強大な国家であったとしても、個人としての日本人が国家と同格であるわけはないし、すべての日本国民が例外なく優秀というわけではないのだから、それぞれ自分の実力に見合った中長期的な見通しを立ててから移住することをおすすめしたい。

移住の動機であったはずの娼婦に捨てられ(商売で付き合ってもらっていたことに気づいていない)、なけなしの貯金を投資して設立した会社もすぐに廃業を余儀なくされ(タイに来れば自分はスーパーマンになれると妄想している)、タイでは外国人の単純労働が認められていないため自分の経歴に見合った仕事に就くこともできず(労働市場における自分の競争力について正しく理解できていない)、運良く仕事が見つかったところで高校生のアルバイトのような安い賃金でコキ使われ、日本人なら誰でももらえるであろう年金などの基礎的な社会保障の受給資格まで失ってしまい、もう死ぬしかないような状況にまで追い込まれている日本人が、バンコクにはそれこそウヨウヨとしている。もう現実が直視できなくなって、他人と比較しては「そんなのはウソだ。そんなはずがない!」と言って、自分の殻に引き籠もってばかりいる重度の自己愛性人格障害に患っている日本人も少なくない。しかし、どんなに必死こいて現実を否定しようと頑張ったところで、きっとホントウの現実の方がもっと不愉快だろう。

一部で生ゴミの集積場より強烈な腐臭を放っているバンコクの日本人社会において、今晩は希少なダイヤの原石を見つけたかような喜びがあった。友人はありのままの現実を客観的に受け入れて、自分のポリシーに従って行動しようと心がけているし、そのように努めている限り、ここバンコクで幸せにやっていけるに違いない。この友人のように、ステキな現地採用生活を送っている日本人も相当数いるのかもしれない。日頃から妄想の世界に引き籠もってばかりいる一部の日本人たちにウンザリさせられっぱなしの僕にとって、彼女はまさに砂漠のなかのオアシスのようだった。

バンコクで生活をしていくのに必要な適性については、いろいろなところでいろいろと語られているが、僕は個人の能力より、むしろ安定的な精神状態をどれだけ維持できるかのほうが重要だと思う。

ステキな現地採用生活に乾杯!

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。