上司は部下に食事をおごる

「大丈夫。わたしは大丈夫よ。これもタンブンってやつかな? でも、こんな功徳を積んだところで、本当に良いことなんてあるのかしら? あははははー」

夜、スクンウィット17街路にあるロビンソンデパートの地下に入っているタイスキ屋 MK で、友人の上司は、自分と部下3人分の食事代、合計800バーツを財布から取り出しながら、奇妙なほどノリノリな様子でそう話していた。

タイは完全な転職型労働社会であり、労働者の賃金は本人の能力と職歴によって決定される。つまり、それなりの能力があれば、どんなに若くても能力相応のポジションと賃金が与えられるし、逆に能力がなければ、どんなに歳をとっていても賃金は一向に上がらない。今晩、夕食をともにした友人の同僚たちの月給は、それぞれ友人の上司(女性32歳)が62,000バーツ、部下A(試用期間を終えたばかりの友人)が56,000バーツ、部下B(女性22歳)が22,000バーツ、部下C(女性40歳)が18,000バーツ、部下Dが(女性23歳)12,000バーツといったカンジで、まるで年功序列なんかクソ食らえだとでも言わんばかりだった。友人(部下A)は、今後2ヶ月の業績次第で上司と同格まで昇格できる可能性があるという。

上司が部下に夕食をおごる目的はひとえに部下の人心掌握にあるが、所得格差がこれほど大きかったら部下に食費を出させるわけにいかないのかもしれない。上司として振舞うのも、なかなか楽ではなさそうだ。

会食中、僕は彼女たちの内輪話について行けず、鍋のなかの料理をひたすら食べ続けていた。

「それで妹さんの学費、一学期いくらなの?」

僕の正面に座っていた友人は、スリン県(タイ東北部)の妹に仕送りをしている部下Dに対してそれとなく話題を振っていた。タイ人お得意の「相手の階級調査」がまた始まった、と思いながら、その話に耳を傾けてみた。

「公立高校だから、ほとんどタダみたいなもんよ」

部下Dは要領を得ない回答でやり過ごそうと試みたようだが、友人も追及の手を緩めない。

「それなら、毎日いくらの金を使わせてあげてるの?」

バンコク都内の中流家庭では、高校生の小遣いは1日あたり70~130バーツが妥当なところ。内訳は、昼食代25バーツ(飲料代込み)、交通費往復60バーツ、自由に使えるのは20バーツといったところか。

「・・・・・・40バーツよ」

これっぽちでは、それぞれ昼食代を15バーツ(飲料代抜き)、往復の交通費を20バーツに抑えても、手元には5バーツしか残らない計算になる。その答えを聞いて友人は満足したのかほくそ笑んで、この話題は何事もなかったかのように終了した。

まるで北斗の拳のような理不尽な世界だ。

僕と友人(部下A)は、自分の食費としてそれぞれ200バーツずつを払った。

きょうは、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階の自室で視力矯正手術に関する情報をインターネットで集めてから、スクンウィット17街路にあるロビンソンデパートへ行って地下にあるタイスキ屋 MK で友人の同僚たちと夕食をとった。帰宅後、昨晩スクンウィット23街路にあるイタリア料理店 GIUSTO へ行ったときに残ったため自室へ持ち帰っていた赤ワインとチーズを冷蔵庫から取り出して消費した。

タイという階級社会で生きる

2004.10.06

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。