バンコクのホストクラブに潜入してみた

「いつもどおりでしたら、午前1時ごろになれば客が増えてきます。閉店時間は午前3時すぎです。もし気に入ったオトコがおりましたら、この者に遠慮なくお申し付けください、とお友達にお伝えいただけませんか?」

午後10時半ごろ、ソングプラーング街路のミーチャイマンション1階にあるホストクラブへ、友人の日本人ふたりと入ってみた。薄暗い店内では、時代遅れの古臭いディスコミュージックが流れていた。水色のタキシードを着ている男から冒頭にあるように耳打ちをされて、うしろを振り返ってみたところ、赤いソファーに座っている20人前後のホストたちが強烈なスポットライトを浴びていた。全体的に「顔はビミョーだけど、オシャレだし体格も良い」といった印象で、女性によって好みが分かれるところかもしれない。

容姿だけでホストのレベルを語るのは少し乱暴すぎるかもしれないが、友人の日本人女性はバッサリと切り捨てた。

「失敗した。あのなかで一番イケてそうなのを選んだつもりだったのに、近くで見てみたら全然イケてなかった」

このホストクラブでは、ホストをひとり指名するごとに2ドリンク分の料金がかかる(1ドリンク300バーツ)。今回の料金は、 Johnnie Walker Red Label のボトル代(1,300バーツ)とホストの指名料(600バーツ×1人)の合計2,000バーツだった。

午前1時という時間帯は、ラッチャダーピセーク通りの界隈にある性風俗店で働いているソープ嬢やカラオケスナックのホステスたちが帰宅する時間と一致している。つまり、このホストクラブのおもな得意客は、タイ人の娼婦たちと考えて良いだろう。

「タイ人の売春婦たちは、地方の農村部に住んでいる兄弟や姉妹を学校へ通わせ、貧しい両親に良い暮らしをさせるために、やむなく身体を売っている」

タイ娼婦オタク(娼婦が好きなだけなのに「タイが好き」と言い換えて話す悪いクセがある一部の日本人男性たち)のあいだでは、このような論調がいまでも根強い支持を得ているが、それが虚構であり欺瞞であることは、これまでの調査によってすでに明らかになっている。そもそも、この説は、道路の清掃や屋台の売り子などをして生計を立てている女性たち(月収4,500バーツ程度だが毎月500バーツぐらいなら実家へ仕送りできる)の存在を完全に無視しており、前提そのものが間違っている。ってゆうか、外国の諸事情について情報がなかなか手に入らなかった20年前ならともかく、インターネットが広く普及しているこのご時勢にそんな世迷言を言ったところで、せいぜい鼻で笑われるだけだろう。まったく時代錯誤も甚だしい。

アサンプション大学の世論調査研究所がおこなった売春の実態に関する調査(2002年3月10日~3月25日)によると、娼婦たちのお金の使い道は、▽娯楽施設での支出(7.6%)、▽携帯電話の利用料金(5.6%)、▽学費(5.2%)、▽旅行費(5.2%)、▽住居費(4.9%)、▽衣服装飾品代(4.5%)、▽ローン返済費用(3.2%)の順となっている。娼婦が両親や親族たちを養うために売春をしているという話は、この結果からも分かるとおり、実態からかけ離れており、物事の本質を正しく言い表しているとはいえない。

きょうは、スィーロム6街路にある日本料理屋「伯楽」で、友人の日本人たちと焼酎の水割りを浴びるように飲んでから、ミーチャイマンションの1階にあるホストクラブへ行った。途中、原因不明の強烈な腹痛に見舞われ、午前零時前には抜け出して家路についた。

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ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。