深夜に客を選ぶタクシー

「この時間帯は完全な売り手市場ですよ。乗車拒否をしたところで、客なんかいくらでもいるんですから」

タイの娯楽施設は、サービス施設法(1966年)と革命評議会布告294号(1972年)によって、午前2時の閉店が義務付けられている。プララームガーオ通りの歩道は、プララームガーオ8街路 (Royal City Avenue) の界隈にあるパブの閉店とともに若者たちで溢れかえり、片側3車線のうち2車線を占領して客待ちをしているタクシーに次々と乗り込んでいった。

客待ちをしているタクシーの助手席のドアを開けて行き先を告げたが、どの運転手もなかなか首を縦に振ってくれなかった。僕の住まいがあるスクンウィット13街路は、プララームガーオ8街路から約4キロと近く、運賃も安い。5台目のタクシーが正規料金で行くと答えてくれたので、ようやく後部の座席に腰を下ろして一息つくことができた。

「これだけ長いこと待っていたのですから、やはり長距離の客がほしいですね。それと、身なりの悪い客は危険ですし、泥酔している客は車内で吐くこともあるのでお断りしています。外国人が来たらめっけもんですよ! メーターを使わずに交渉次第で自由に運賃を決めることができるのですから」

もっともな話だと思って興味深く耳を傾けていたが、次第に運転手が僕と友人の関係について首を突っ込んできたため、早々に話を切り上げて、今晩の DJ について友人と話し込んだ。

昼すぎ、スィーロム通りにある珈琲屋へ行って友人たちとペーパーを書き、午後9時にプララームガーオ8街路にあるパブ Slim へ別の友人たちと繰り出した。今晩は DJ の世界大会で優勝した白人がブースで名人芸を披露していた。

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ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。