タイ映画「プアンサニット」

「もしかして、いま自分がしていることに確信が持てないでいるんじゃないの?」

午後9時頃、高架電車エーガマイ駅の前にある映画館 Major Cineplex で、いま見たばかりの映画で主人公がとった選択に納得をして、自分の胸の前で腕を組みながら、地下の駐車場へ通じる階段を無言のまま下りていたところ、その様子を不審に思った友人から尋ねられた。さすがに「そうだ。ちょうどいま、自分が誤った判断にもとづいて、誤った行動をしているのではないかと、疑問に思っていたところなんだ」と答えるわけにはいかず、一言「そんなことはない」とだけ言って、その場を取り繕った。

タイ映画「プアンサニット」は、アピチャート・ニティットナピチョンスティンの小説 Dear Dakanda が原作のロマンス・コメディーで、2003年にタイで大ヒットしたタイ映画「フェーンチャン」のコングリット・トリーウィモンが監督を務めている。映画のタイトルにもなっている「プアンサニット」とは、親友という意味のタイ語だ。

この作品では、大学生の「たれタマゴ」(サンニー・スワンメーターノン演)が、チアングマイ大学の美術学部と、そこから1,500キロも離れているスラートターニー県のパンガン島病院で、それぞれ時間と場所、相手と立場を変えて体験した出来事が描かれている。

チアングマイ大学時代、たれタマゴはバンコクにある男子校を卒業して、はるばるチアングマイまでやってきた、シャイな芸術学部の学部生だった。女子学生を目の前にすると、いつもぎこちなく振る舞ってしまう。そんなたれタマゴの前に現れたのが、変わった名前の天真爛漫な女子学生「ダーガーンダー」(ヌン=スィラパン・パッタナヂンダー演)だった。たれタマゴはダーガーンダーに一目惚れをしたが告白をする勇気もなく、ダーガーンダーがいつもほかの男性に好意を寄せていたこともあって、卒業までの4年間、ふたりの関係が「プアンサニット」以上に発展することはなかった。

パンガン島病院入院時代、たれタマゴはチアングマイからやってきた芸術家の患者だった。スラートターニーからパンガン島へ向かう船の上で、ミュージックビデオに登場する主人公の真似事をしていたところ、転落して足の骨を折ってしまい、パンガン島にある病院へ搬送された。そこでたれタマゴは南部系の目鼻立ちがハッキリとしている女性看護師「ヌイ」(エー=マニラット・カムウワン演)による献身的な看護を受けた。ヌイはたれタマゴに好意を寄せていたが告白をする勇気もなく、たれタマゴが別の女性を気にかけていたこともあって、退院するまでのあいだ、ふたりの関係が「プアンサニット」以上に発展することはなかった。

時間と場所、相手と立場を変えて、3人の男女の想いが交錯するラブストーリー。たれタマゴは、はたして山の女性と海の女性のどちらを選ぶのか?

この作品は、まさに「オトコの選択」を扱っている。人生の重要な局面において、オトコがどのような選択をするのか興味を持っている女性や、過去の思い出に浸りたい男性にオススメしたい。作中に登場する回想シーンでは、タイで過去数年間のあいだにヒットした曲がたくさん挿入されているため、年単位でタイに住んでいる人であれば、一瞬にして思い出の世界へ引き込まれていくだろう。

この作品を観る前に、二者択一をするときに主人公が用いた判断基準の合理性について、正しい理解をするために、つぎのことを押さえておきたい。

主人公の「たれタマゴ」は、物語のクライマックスで、ダーガーンダーとヌイのどちらかひとりを選ぶことを迫られる。タイは極端な階級社会であるため、もしふたりのあいだに階級社会を構成する要素で大きな格差があったら、ストーリー全体が破綻してしまう恐れがある。そのため、ふたりとも地方にある都市部の(おそらく中間層の)出身で、4年生大学を卒業しているなど、階級社会的な戦闘力において、絶妙ともいえるバランスがとられている。あえてここでバンコク人的な感覚でふたりの優劣を決めるなら、南部の出身者はその独特な容姿や方言(南部人の発音はかなり聞き取りにくい)などが原因で、しばしば差別的に扱われることがあるため、北部出身のダーガーンダーのほうが若干有利かもしれない。

昼すぎ、スィーロム通りにある珈琲屋 Bug and Bee へ行ってタームペーパーを書いてから、 Major Cineplex のスクンウィット店で友人とタイ映画「プアンサニット」を観た。

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  • Puen Sanit (Dear Dakanda)

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  • 匿名

    はじめまして。
    アジアフォーカス福岡映画祭で「プアンサニット」を観てきました。(ちなみに「親友」という邦題がつけられていました)
    こちらの記事でこの作品の背景がよく解り、興味深く読ませていただきました。
    映画祭での上映の模様は私のブログにも簡単ですが紹介しておりますので、よろしければご覧下さい。
    ※トラバしたかったのですが、なぜかうまくいきません

    http://coolkoro.exblog.jp/

  • 匿名

    はじめまして。
    アジアフォーカス福岡映画祭で「プアンサニット」を観てきました。(ちなみに「親友」という邦題がつけられていました)
    こちらの記事でこの作品の背景がよく解り、興味深く読ませていただきました。
    映画祭での上映の模様は私のブログにも簡単ですが紹介しておりますので、よろしければご覧下さい。
    ※トラバしたかったのですが、なぜかうまくいきません

    http://coolkoro.exblog.jp/

  • はじめまして。

    プアンサニットの日本語訳、出たんですね。
    たぶん、今公開中のラブコメ「Seasons Change – だって天気は変わりやすいから」も、きっと1年後くらいには日本語化されるんでしょうね。

    トラックバック、ありがとうございました。自分でもよく覚えていないのですが、たしかこのブログには「記事に言及のないトラックバックは自動的に削除する」というプラグインが入っている関係で、トラバできなかったんだと思います。

    実はいま、通勤時間を使って黒船来襲的(?)なタイ映画関連サイトを構築しています。最新のタイ映画の魅力を余すことなくお伝えできればと思います。現在完成しているのは、いずれも半年以内に公開された映画「モーペート – 旧制中等教育学校第8学年」、「ヌーヒン映画版」、「ザ・ギック – 友達以上恋人未満」、「Seasons Change – だって天気は変わりやすいから」の4作品です。今日の会社帰りに「ゲングチャニー・ガップ・イーエープ」のレビューを書こうかと思っています。来週末あたりに、もう少し作品数を増やして公開に漕ぎ着けたいと思います。どうぞ、お楽しみに。

  • はじめまして。

    プアンサニットの日本語訳、出たんですね。
    たぶん、今公開中のラブコメ「Seasons Change – だって天気は変わりやすいから」も、きっと1年後くらいには日本語化されるんでしょうね。

    トラックバック、ありがとうございました。自分でもよく覚えていないのですが、たしかこのブログには「記事に言及のないトラックバックは自動的に削除する」というプラグインが入っている関係で、トラバできなかったんだと思います。

    実はいま、通勤時間を使って黒船来襲的(?)なタイ映画関連サイトを構築しています。最新のタイ映画の魅力を余すことなくお伝えできればと思います。現在完成しているのは、いずれも半年以内に公開された映画「モーペート – 旧制中等教育学校第8学年」、「ヌーヒン映画版」、「ザ・ギック – 友達以上恋人未満」、「Seasons Change – だって天気は変わりやすいから」の4作品です。今日の会社帰りに「ゲングチャニー・ガップ・イーエープ」のレビューを書こうかと思っています。来週末あたりに、もう少し作品数を増やして公開に漕ぎ着けたいと思います。どうぞ、お楽しみに。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。