夕方の文学部前

「高校生のころは、放課後に使えるお金なんてなかったから、サヤームスクウェアの周辺を徘徊したあとに、いつもヂュラーの文学部の前へ行ってダラダラとしていたのよね。日陰にあるタダで座れるベンチは、それはそれは魅力的だったわ」

数週間前、友人が自分の高校時代をそのように振り返っていた。

昼前、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階の自室で、その友人が注文しておいてくれた宅配のタイ料理をかっ込んでから、髭も剃らずに、大急ぎでヂュラーロンゴーン大学の文学部へ向かった。タームペーパーの提出日が間近に迫るなか、髭や頭髪だけではなく、日常生活のありとあらゆる場面で破綻が生じている。

そんななか、きょうは良いニュースもあった。ひとつは、イスラーム研究のタームペーパーの提出期限が1ヶ月間延長されたこと。もうひとつは、ミャンマー研究のプレゼンテーションが1週間延長されたこと。特に、ミャンマー研究のペーパーについてはかなり絶望的な状況にあったから、今回の措置でかなり救われたことになる。しかし、胸をなでおろしてばかりもいられない。提出期限はいずれやって来る。どこかへ飛んでいって、消えてしまったわけではないのだから。

ミャンマー研究の講義終了後、文学部4号館の前にあるベンチに陣取って、テーブルの上にタームペーパーで使う資料を広げ、ノートパソコンを学生専用の無線 LAN に接続した。

午前4時になると、文学部前のベンチは、文学部の学部生たちのほか、文学部の裏にあるスィーナカリンウィロート大学附属サーティット・パトゥムワン中等教育学校、建築学部の裏にあるトリアムウドムスックサー中等教育学校、法学部の裏にあるヂュラーロンゴーン大学附属サーティット中等教育学校の生徒たちでごった返した。

午後5時、肌を焼くような灼熱の太陽も徐々に穏やかになり、学部生や生徒たちもこぞって家路についた。それでもまだ、教科書を広げて試験勉強をしながら、友人が来るのを待っている学生たちの姿もちらほらと見られた。芝生のど真ん中では、巨大な雑種犬が寝ころび、頭上にある木々の枝をリスたちが走り回っていた。

午後6時、きょう最後となる文学部の授業が終わって、新校舎のボーロムラーチャグマーリー館から学生たちの一団が吐き出された。大学の構内でタイの国歌が放送されると、人々が直立不動の姿勢をとり、プラヂュンラヂョームグラーオ大王とプラヂョームグラーオ王の銅像の前に掲げられているタイの国旗が降納された。

以降、学生たちは大学の構内から完全に姿を消し、周囲の警備が一気に厳重になった。何匹もの雑種犬が警備員のあとをついて歩き、食堂のおばちゃんたちが店のシャッターを閉めてベンチでくつろいでいた。周囲は日没とともに急速に暗くなり、ノートパソコンの明るい画面のまわりに集まってきた蚊に全身を刺されまくった。

その後、スクンウィット22街路にある大衆居酒屋「栄ちゃん」へ行って友人たちと酒を飲んだ。

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。