タイ人が海外旅行に求めるもの (タイ人との香港旅行最終日)

「カワイイ服なら、バンコクのほうがたくさんあるし、値段だって安いんだから、わざわざ香港まで行ってショッピングをする必要なんかないわよ」

日常とは異なる空間に身を置くことによって、煩わしい日頃の社会的なしがらみなどから精神を解き放ち、思い存分羽根を伸ばすことができるところが、海外旅行の醍醐味といわれている。社会学の学者たちは、この現象を「非日常」と呼んでいるそうだが、日本人とタイ人ではそもそも海外旅行に求めているもの自体がまるで異なっている。

日本人がバンコクの開放的な雰囲気に居心地の良さを感じているのと同じように、タイ人は自分たちの「あいまいな社会」をそれなりに気に入っている。ロサンゼルスに留学していた頃に同居していた友人のタイ人によると、タイ人は母国にいても十分にストレスを発散させることができるため、外国へ行くとかえってストレスが蓄積するばかりで、あまり良いことはないという。

日本人にとって、香港の魅力とは、物価が安く、街全体が混沌としているため、非日常という空間に浸って、開放感を体験できるところにある。ところが、タイ人にとっては、物価が高く、街並みも整然としすぎているため、とても現実的で、かえって窮屈にすら感じるという。

タイという極端な階級社会のなかで生きている人々にとって、海外旅行とは、非日常を楽しむための行為ではなく、むしろ階級社会という現実のなかで自分が中流であることを確認するための行為、といった意味合いのほうが強い。

タイ人は、自らのルーツを漢民族に求めており、中国人や中国の文化に対して一種の憧れのようなものを抱いている。そのため、香港、シンガポール、雲南省など、中国方面のパッケージツアーが人気を集めている。ところが、香港特別行政区やシンガポールのような都市国家に漢民族のルーツを見出すことは難しく、時として、それがタイ人の観光客たちをひどく落胆させる原因となっている。

今回の香港旅行では、雨が3日間連続で降り続け、しかも英語が日本と同じぐらいに通用しなかっため、いろいろと気苦労が絶えなかった。あさ、滞在先のホテル「大華酒店」をチェックアウトして、ショッピングへ出かけた。が、都市を観光するという行為に対して、興味を完全に失っており、昼すぎにホテル「大華酒店」まで戻ってきてからは、旅行代理店が手配した香港國際機場行きのバスが迎えに来る午後6時までのあいだ、ロビーでだらだらと時間をつぶし続けた。翌8日午前1時すぎ、バンコク・ドーンムアング国際空港に到着した。初日にドーンムアング空港でタイバーツから両替した香港ドルはすべて使い切っていた。ひとり分のツアー代金11,000バーツのほか、現地で使った食費、交通費、遊園地の入場料などで7,004バーツかかり、今回の旅行費用の総額は18,004バーツだった。

ABOUT US

ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。