「非日常」はどこにあるのか? 後編

「もしかして、タイ人ってシャイだったりする? せっかくいい音楽があるのに、なんでみんな踊らないのよ? こんなんじゃ、わたしたちも踊れないじゃん」

夜、 Royal City Avenue にあるパブ Route 66 へ、ロサンゼルス留学時代の友人たちと繰り出した。

2003年以降、バンコクにおけるのクラブシーンの主流は、ヒップホップとタイポップスの二本立てとなった。トランスやダンスミュージックはすでに過去のものとなり、リズムに合わせて踊り狂うスタイルは確実にウケなくなってきている。さらに、都市部において近代化が進み、人々の所得水準が向上したのにともない、階級社会との親和性が高い「ハイソ」が大衆化し、優雅にソファーに座りながら酒を飲むスタイルが流行した。そのため、いまやバンコクの若者たちのあいだで「パブ=ヒップホップ=ハイソ系=踊らない」といった図式が完全に定着している。このような店へ行って狂ったように踊っているのは、せいぜい流行についていけなくなった年寄りか、地方から出てきたばかりの田舎者ぐらいだろう。ここ10年のあいだで起きたタイの近代化による影響は、このような変化のなかにも表れている。

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Route 66 に到着したときには、すでに店内は満席となっており、人々が店の外にまで溢れ出してきていた。そこで、とりあえず、店の入口のすぐ近くにある屋外のテーブルに友人たちと陣取って、そこでアルコールを充填し、テンションをあげてから店内へ流れ込むという計画を立てた。ところが、店内へ偵察に行っていた友人は5分もしないうちに戻ってきて、冒頭のように話して肩を落とした。

そこで、バンコクのクラブシーンについて話し合っていたところ、となりにあるパブ Flix からトランスのようなテンポの速い音楽が聞こえてきた。すぐに飲み始めたばかりのウイスキー Johnnie Walker Red Label を店に預けて、音源のほうへ歩いて行った。ところが、 Flix でも踊っている客は一人もいなかった(念のために酒を注文する前に店内を歩いてまわってみた)。

「これじゃ DJ が可哀想だよ」

そのとおりかもしれないが、バンコクにおける現在の主流はヒップホップ系クラブとハイソ系クラブを融合させたかのような形態であり、踊らずに、ソファーに座って優雅に酒を飲むのが流行っているんだからしょうがない。夜のクラブで踊りまくりたいと考えている人には、たぶんタイ特有のクラブシーンである「パブ」は向いていない。

その後、スクンウィット31街路にあるディスコ mystique に行ったが、すでに閉店していたため、スクンウィット23街路にある Narcissus Club へ向かった。

ディスコ Narcissus Club の良い点は、アホのようにはしゃいで踊りまくれること、高さ約5メートルのところにステージが2ヶ所設置されていること、ダンサーが旧 RCA 系のダンスを教科書どおり踊っており、客が踊りやすい環境を作っていること、天井から風船や紙吹雪が降ってきて、風船を手に取ってメチャクチャな踊りができること(こいつらよりもヘボくならないように踊るのは、そう難しくない)。悪い点としては、流行から思いっきり外れていること、客の平均年齢が高く、娼婦連れの外国人が多いこと、友達になる価値のあるタイ人がほとんどいないことなどがあげられる。

いずれにしても、いま主流の階級社会的クラブシーンであるパブへ行ったところで「非日常」を楽しむことはできないから、社会のしがらみを忘れて思いっきりはしゃぎたい人には Narcissus Club をオススメしておきたい。

夕方、ロサンゼルスに駐在している友人がタイへ遊びに来ていたので、高架電車プラカノーング駅前にある、しゃぶしゃぶ・すき焼き食べ放題の店「秋吉」で行われた英語学校の飲み会に顔を出してから、いまバンコクに滞在しているロサンゼルス留学時代の友人たちとクラブへ繰り出した。

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。