タイにおけるゴム製リストバンドの流行

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「お布施を集めるためにリストバンドを使うなんて、このお坊さんは本当にすごすぎるわ」

夜、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階の自室で、この話の一部始終を聞いた友人は、そのように話していた。

あさ、ヂュラーロンゴーン大学の文学部4号館へ行って、タイ研究科の講義「タイ文化」に出席していたところ、友人から電話があった。タオプーンにある自動車整備工場を紹介してくれた友人に、先日来、クルマの修理の一切を委ねていたが、けさになって修理工場から修理完了の報が入ったというので、講義終了後に獣医学部の裏手にあるサヤームスクウェアのタイ料理店 INTER でクラスメイトと昼食をとってから、高架電車サヤーム駅の改札で前出の友人と合流した。高架電車モーチット駅で地下鉄に乗り換え、地下鉄バーングスー駅からタクシーで自動車整備工場へ行ってクルマを引き取った。その後、不慣れな道を運転して、およそ1時間かけて、ノンタブリー県にあるスワンゲーオ寺へ出かけた。

現在タイで流行しているゴム製のリストバンドは、アメリカのランス・アームストロング財団によって企画された LIVESTRONG が元祖といわれている。この財団は、フランスの長距離自転車選手権、ツール・ド・フランス優勝者のランス・アームストロングが、ガン患者を支援するために設立したもので、自転車のタイヤに擬えたゴム製のリストバンドと引き替えに人々からの寄付を募った。アテネオリンピックの前年には、財団の趣旨に賛同したアメリカの政治家やスポーツ選手たちが LIVESTRONG のリストバンドを身に付けて、活動に協力するようになった。現在では、若者たちのあいだでファッションとして受け入れられ、ランス・アームストロング財団が取り扱っている黄色の LIVESTRONG だけでも4千万個が世界中に流通している。

その後、世界中のさまざまな団体が、ランス・アームストロング財団の成功にならって、色とりどりのリストバンドを販売するようになり、ゴム製のリストバンドはボランティア精神の象徴になった。知名度が高いリストバンドだけでもこれだけある。

世界的なリストバンド一覧

  • STAND UP SPEAK UP リストバンド [白黒2色]:フットボールの人種差別に積極的な反対を表明するためのリストバンド。キング・ボードワン財団(フットボール選手)・販売ナイキ
  • No Compromise リストバンド [青色]: 子供に対する虐待・無視・放置を撲滅することに賛成の立場を表明するためのリストバンド。アンディー・ロディック財団(テニス選手)
  • Anti-Bulying リストバンド [水色]:貧困と搾取を撲滅するとともに、津波被害者やガン患者への支援を表明するためのリストバンド。(イギリス BBC Radio)
  • Ninety SIX リストバンド [赤色]: 1989年のFAカップ準決勝で96人の死者を出した「リバプールの悲劇」に対する追悼の意思を表明するためのリストバンド。
  • Make Poverty History リストバンド [白色]: 「貧困を過去のものに」するための途上国支援を表明するためのリストバンド。(Oxfam 財団)
  • Pink Ribbon リストバンド [桃色]: 乳ガンを患った女性への支援を表明するためのリストバンド。(The Breast Cancer Site 財団)
  • True Love Waits リストバンド [赤茶色]: 中高校生の性行為に反対の立場を表明するためのリストバンド。
  • Fuerza y Esperanza リストバンド [黄緑色]: ガン患者への支援を表明するためのリストバンド。(American Cancer Society)
  • Livefree.Smokefree [橙色]: 非喫煙の立場を表明するためのリストバンド。(American Cancer Society)
  • LIVEWRONG リストバンド [黒色]: 快楽を追求する無法者との対決を表明するためのリストバンド。

一方で、タイは西洋文化を「選択的に」取り入れるお国柄であるため、リストバンドもタイの社会に最適化されて流行することになった。すなわち、タイで至高の価値を持つとされている3つの要素が、リストバンドというかたちになって、人々に広く受け入れられたのである。

20050629-2①仏教的ゴム製リストバンド(汎タイ民族主義:仏教)

スワンゲーオ寺(ノンタブリー県バーングヤイ郡バーングレーン)の住職、プラパヨーム師が発案したリストバンド。若者たちに善行を志すよう促す目的で制作された。

スコータイ時代以降、仏教寺院の資金集めはプラクルアングラーングと呼ばれる携行仏像(お守り)と引き替えに行われてきたが、プラクルアングラーングが主に中高年の信者をターゲットとしているのに対して、このリストバンドは若者をターゲットにしている。ひとつ59バーツ。

きょうはこれをゲットするために、はるばるノンタブリー県まで遠出した。

②階級社会的ゴム製リストバンド(階級社会主義:社会的地位・教育的バックグラウンド)

タイ国内の各大学も、今回の流行に便乗するかたちでリストバンドの販売をはじめるようになった。もはやランス・アームストロング財団の崇高な精神からは大きく逸脱してしまっているが、いちおう学生の活動を支援することを建前としている。

階級社会的なゴム製リストバンドは、ステータスを誇示するためのアクセサリーとして、バンコク都内の若者たちのあいだで爆発的に流行した。きょう、クラスメイトと昼食をとったサヤームスクウェアにあるタイ料理屋の店員は、タンマサート大学のゴム製リストバンドを身に付けていた。ひとつ120バーツ。

けさ、講義開始前に文学部ボーロムラーチャグマーリー館の地下にある学生生協に寄って、ヂュラーロンゴーン大学のゴム製リストバンドを購入した。

③愛国的ゴム製リストバンド(汎タイ民族主義)

そのほかにも、タイ国歌の一節 รวมเลือดเนื้อชาติเชื้อไทย(ルワムルアットヌアチャートチュアタイ:タイ族子々孫々の統一体)という文字が刻まれているリストバンドが、駄菓子屋チェーンの AKIKO で販売されている。収益金はタイ深の南部3県におけるテロの被害者支援に充てられる。ひとつ20バーツ。

ABOUTこの記事をかいた人

2001年に金融機関の社内SEを辞めてタイへ渡り、タイ国立ヂュラーロンゴーン大学文学部が開講している外国人のための集中タイ語講座、インテンシブタイ・プログラムを修了しました。その後、アメリカ・ロサンゼルスにおける語学留学を経て、2006年にヂュラーロンゴーン大学大学院の東南アジア研究科修士課程を修了。以来、機械部品商社の海外営業、生産設備商社の海外営業を経験し、現在は機械メーカーの国内営業部門で海外現法向けの部品輸出を担当しています。