バンコクのパブでフツウに振る舞う

「旧 RCA 系のダンスなんて、もう絶対にありえない。クスリが溢れかえっていた数年前ならともかく、いまはもうクスリっていう時代でもないし、音楽の流行も昔とは全然違うから。・・・・・・ってゆうか、あれはいくらなんでもダサすぎた」

あさ、ヂュラーロンゴーン大学で行われた学位授与式の予行練習に、友人たちと出かけた。とはいっても、今回、学位の授与を受けるのは僕ではなく、この3月に商学会計学部を卒業したばかりの友人のほうだ。

毎年この時期になると、プラテープ(スィリントーン王女)が国王陛下の代理としてヂュラーロンゴーン大学の講堂へおでましになり、卒業生のひとりひとりに学位記を手渡しで下賜される。そのときに粗相があってはいけないので、本番前に予行練習が2回行われ、参加しなかった卒業生は、学位授与式に参列することができない規則になっている。

午前10時、ヂュラーロンゴーン大学工学部の時計台前で、友人たち7人と合流して、みんなで持ち寄った花束を工学部の学位服を着ている友人に手渡し、記念写真を撮った。夜、そのメンバーで Royal City Avenue にあるパブ Slim へ繰り出した。

今月の日記に繰り返し書いていることだが、近年登場したばかりのパブを、旧 RCA 系のディスコと同一視してしまうのは、あまりにもヤバすぎる。旧 RCA 系ディスコの価値観が現存しているクラブシーンは、いまやバンコク中心部では Hollywood や Dance Fever などの一部の「イーサーン館」ほか数ヶ所に限られている。

そこで今回は、バンコクのクラブシーンにおけるスタイルの変容について、音楽の流行の変遷をたどりながら考えてみたい。

① トランス/ダンスミュージック BPM (Abbreviation of beats per minute) = 130~160

2003年当時、バンコク都フワイクワーングにあった旧 RCA 発のトランスやダンスミュージックが、タイ国内のクラブシーンを席巻していた。代表曲は Davai Davai (ยาวไป ยาวไป RCA: Olga Iyanova) や Pizzaman (Cisco Kid) など。いまではとうてい信じられないことだが、当時のバンコクにおけるディスコシーンでは、一般にフリースタイルで踊られることが多かった。両手を身体の正面に突き出し、両手の手のひらを正面に向けて左右交互に上下させるというスタイルが、特に RCA 的とされていた。

実際に ยาวไป ยาวไป RCA を聞きながら、鏡の前に立って両手を上下に動かしてみると、そのスタイルの強烈さを体験することができるだろう。こんなダサいスタイルも、数年前までの麻薬と酒乱の宴では、一世を風靡していたという。

昨年まで DJ をしていた友人によると、当時は若者向けのタイポップスがあまりにも貧弱だったため、このような訳の分からない音楽を、曲のテンポの上げて流し、過激な MJ が連発させる以外に、クラブシーンを盛り上げる方法がなかったという。

このスタイルの音楽は、今でも Go Go Bar へ行けば聞くことができる。

② ヒップホップ/R&Bミュージック BPM=65~100

このような従来のクラブシーンは、タイ国内における麻薬の流通量が減少したことを受けて取引価格が高騰したことや、欧米各国におけるクラブシーンの流行が大きく変化したこともあって、次第にヒップホップや R&B に取って代わられた。ところが、タイ文化の伝統は、外国の文化をそのまま取り入れることではなく、あくまでも「タイらしさ」という基準によって選択的に取り入れるところにある。当然、欧米のヒップホップの文化も選択的に取り入れられ、本格的なヒップホップダンスがタイのクラブシーンにおける主流になることはついになかった。

その頃、平均的なバンコク人の生活水準が飛躍的の向上したことを受けて、ハイソへの希求が流行のトレンドとなり、豪華な施設や上品な振る舞いが重んじられるようになった。そのため、脇目もふらず、自己流のヘボヘボダンスを演じてしまうと、バンコクでは積極的に踊るのは女性のスタイルとされているため、ゲイやオカマなどの同性愛者とみなされることになる。また、もし本気でイケてる風を装いたいのなら、その前に、高架電車サヤーム駅前の Siam Discovery Center にあるダンス教室へ通って学んでおくことをオススメしたい(2004年6月11日付日記参照)。

実際に革製のソファーに深く腰を掛けて、新生 RCA で流されているような R&B ミュージックの代表格である Ciara – Goodies ft. Petey Pablo を優雅に聞いて、身体を軽く上下に動かしてリズムをとってみると、旧 RCA 系ダンスとの違いを体験することができるだろう。

③ タイポップス BPM=70~90

ヒップホップや R&B の流行にともない、タイにおけるポップミュージック全体が質的に底上げされ、曲調の国際化が図られたことで、バンコクのクラブシーンではバンドによるタイポップスの生演奏が主流になった。タイポップスの生演奏自体は以前からあったが、新しいクラブシーンでは、グループの結束を強め、新しい人間関係である「ギック」(友達以上恋人未満)の成立を促進させることが求められている。ラジオ局のリクエスト曲のランキングでも、人間関係(特にギック)をテーマとしている曲が上位にランクインするようになっている。

ここ数ヶ月間、バンコクのパブでは、 Bodyslam の ความรักทำให้คนตาบอด(愛は盲目)が流行っており、一晩に3回以上演奏されることも珍しくない。その歌詞はつぎのとおり。

ความรักทำให้คนตาบอด
愛は人を盲目にする
Bodyslam
ボディースラム

รู้ ว่ามันไม่สมควร ที่ยังกวนหัวใจเธอ ฉันขอโทษที
分かってる もう君の邪魔なんてすべきじゃないんだ すまないと思ってる
รักและยังคอยหวังดี ทั้งที่ไม่มีสิทธิ์
愛してる まだ善意もある たとえその権利がなくても
เพราะความจริง เธอก็มีเขา คนนั้นเป็นคนที่สำคัญกว่า
実際のところ 君にはもう彼がいるし その人の方が大切だ

* มันอาจจะผิดที่เป็นอย่างนี้ ที่มันยังรักเธอจนสุดหัวใจ
こんなのはきっと誤りなんだ 君をいまだに心の底から愛しているなんて
เมื่อรู้ว่าไม่มีทาง แต่ฉันก็ไม่ตัดใจ เหมือนคนไม่รู้ตัว
たとえムリだと分かっていても それでも僕は諦められない もう訳がわからないんだ

** มันอาจจะถูกที่ใครบอกไว้ ความรักมันทำให้ตาบอด
誰かが言っていたのはたぶん正しかったんだ 愛は人を盲目にする
จนมองไม่เห็นความจริง ว่าฉันเป็นใคร ทำให้ไม่เข้าใจ
真実までが見えなくなる 自分が誰なのかすら分からなくなる

ทำไมยังรักแต่เธอ
どうしてまだ君だけを愛しているのだろう
รู้ ควรจะหักห้ามใจ หากทำได้ง่ายดาย
分かってる もう諦めるべきなんだ もしそれが簡単にできることなら
ฉันก็คงไม่ต้องสับสนอย่างนี้ จบๆไปเสียดีกว่า
きっと僕はこんなに苦しまずに済む もう終わりにしてしまった方がいい

(*, **)

ทำไมหมดทั้งหัวใจ มันยังคงรักแต่เธอ
心をからっぽにしたというのに どうしてまだ君だけを愛しているのだろう

この曲では、3行目で相手に恋人がいることを提示して、5-6行目で自分が「混乱」していることを口実に恋人がいる相手に好意を持っていることを正当化し、9-10行目で後戻りすることなく「そのままいっちゃえ」と背中を強く押している。さらに最後の11行目で優柔不断に陥りかけている老若男女に対してダメ押しをかけている。この程度のことで、まさか人々が目隠しされたイノシシのように突進を始めるとは思えないが、このような曲をみんなで次から次へと熱唱していくうちに、同じグループにいる人々のあいだにある距離感をジワリジワリと縮めていく。

バンコクのパブでは現在、上記の②と③を1時間おきに交互に入れ替えるスタイルが一般化している。僕たちは、②のタイミングでノリを保ちながら血液中のアルコール濃度を高め、③のタイミングで熱唱しながら最高までノリノリになる。そのため、③のタイミングがもっとも重要な役割を果たす。そのチャンスを最大限に生かすためにも、過去数ヶ月のあいだに流行ったタイ語曲はひととおり歌えるようにしておきたい。客の大多数のノリを手っ取り早く盛り上げるために、過去にロングランした名曲が演奏されることもあるから、一応勉強しておけば、何かの役に立つかもしれない。

PEAK FM (88.0) のヒットチャートは、パブで演奏されているような曲を中心に流しているので、オススメしておきたい(タイポップスを覚えたくないという人には、タイ語曲の演奏がない店を勧めておきたい)。

ABOUT US

ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。