タイ語の英字表記とカタカナ表記

「タイ語の英語表記の規則って、モングット王の時代にあったタンマユット運動が関係しているらしいよ」

夕方、スィーロム通りにある珈琲屋 Bug and Bee で、友人がタープラヂャン・プラクルアング倶楽部のウェブサイトを見ながら、タイ語の英字表記の起源について説明してくれた。

日本語の刊行物で用いられているカタカナ表記のタイ語は、残念ながらタイ人たちが話しているタイ語の発音からは著しくかけ離れているのが現状だ(3月2日付日記参照)。このような事態を招いた原因としては、タイ語を読めない研究者や編集者たちがタイ関連の英文出版物に書かれているアルファベットをもとにタイ語をカタカナで表記してしまったことや、タイ語の英字表記そのものが本来のタイ語の発音から著しくかけ離れていることなどが考えられる。

日本語文献のタイ語

2005.03.02

そこで、きょうはタイ語のカタカナ表記のルーツとなっている英字表記について考えてみたい(そもそも最初からタイ語の発音に則して忠実にカタカナで表記していればこんな考察なんか不要なんだけど・・・・・・)。

モングット王(ラーマ4世)は1833年、仏教における戒律の形骸化を憂い、戒律に厳格な宗派である「タンマユット派(タンマユットニガーイ)」を創設した。今日使われているタイ語の英字表記は、すべてこのときに定められた仏教用語の英字表記の規則がもとになっている。

しかし、タイにおける仏教用語はタイ語の古典語であるバーリー語に依拠しているため、英字表記の規則もタイ語ではなくバーリー語の発音をもとにして定められた。つまり、英字で書かれているタイ語をそのまま英語風に音読すると、タイ語とは似ても似つかないようなバーリー語の発音になってしまう。

一部の専門家たちが論文のなかで用いているカタカナ表記のタイ語も、ほとんどがタイ語ではなく、バーリー語の発音のままカタカナに転写されている(タイ語の知識が無いことを露呈するわけだから、専門家としてはあまりにも無様で滑稽すぎる)。さらに、日本語出版物の執筆者や編集者たちは、タイ語の知識が十分にないため、過去にカタカナ表記が「発明」されているものについてはそのまま用い、いまだ「発明」されていないものについてはバーリー語の発音どおりに表記されているアルファベットをもとに語尾を延ばすなどタイ語っぽく見せかけるための細工をしたうえで新たにカタカナ表記を「発明」して使用している。そのような経緯で、日本人社会には、本来のタイ語の発音から著しくかけ離れているバーリー語発音準拠のカタカナ表記が広く定着してしまっている。

たとえば、タイの首相である ทักษิณ ชินวัตร は、タイ語で発音するとタックスィン・チンナワット(ทัก-สิน-ชิน-นะ-วัด)となるが、バーリー語準拠の英語表記ではタクシン・シナワトラ (Thaksin Shinawatra) となる(さすがにタイの首相ほど重要な人物になると、日本語で表記するときにタイ語の発音も参考にされるようだが、二重に発音する必要がある特別な子音を見つけ出すのは上級技であるため、タックスィン・チナワットの「ン」の字が落ちて、タクシン・チナワットと表記されてしまっている)。

古典語のバーリー語発音でタイ語を話すのは、もしかしたら知的でオシャレなように見えるかもしれない。しかし、バーリー語発音のタイ語でコミュニケーションをとっているタイ人なんかいないし、そもそも世間一般のタイ人には絶対に通じない(ただし外国人向けの職業に就いているタイ人が相手なら通じることもある)。

タイ語の教育を受けていない日本人に対して「タイ語は正しく発音しましょう」と無理を強いるつもりはないが、僕たちひとりひとりが日頃からタイ語発音に忠実なカタカナ表記をするように心がけていけば、もしかしたらタイ語を知らない人たちのあいだにも発音どおりの正しいカタカナ表記が定着するかもしれない。

きょうはスィーロム通りにある珈琲屋へ行って友人とオンラインのタイ字新聞を読んでから、タニヤ通りで夕食をとり、スクンウィット16街路にある日本人経営のレトロなバー Astro へ行って別の友人と酒を飲んだ。店内の至る所にアンティークが飾り付けられており、テレビドラマの撮影にも使われたことがあるという。

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。