日本語文献のタイ語

午前2時すぎ、スィーロム通り沿いにある珈琲屋 Bug and Bee で、友人たち3人とそれぞれ思い思いの作業をしていた。

ペーパーの提出日が明後日に迫り、いつになく苛立っていた。このままのペースでは、どう頑張ったところで、期限までに完成させられそうにない。苦肉の策として、日本語で書かれた論文からキーワードとなる単語を拾って概要だけでも理解しておこうと試みたが、なかなか期待していたような成果が上げられず、とうとう堪忍袋の緒が切れた。

タイ語学習をはじめたばかりの2002年、タイ関連の専門書に書かれているタイ語のカタカナ表記を見るたびに戸惑っていた。日本語で書かれているタイ語のカタカナ表記が、実際の生活のなかで耳にしているタイ語の発音からあまりにもかけ離れていたため、自分が知っているものと専門書に書かれているものが同一のものを指しているのか判断できなかった(サヤームとサイアムとか)。ところが、タイ語が身に付いていく過程で、専門書に書かれているカタカナ表記が誤っているということを知って衝撃を受けた(2005年5月12日付日記参照)。それ以降はただただ呆れるばかりで文句を付ける気にもならなかったが、さすがに今晩ばかりはその専門書を男子便所のほうへ向かって力一杯投げつけてやりたくなった(実は本当に投げつけるような素振りをしたところ友人たちに制止された)。日本国内にいる著名な先生方が書いた文献にある、見当違いも甚だしい恥ずかしすぎるタイ語のカタカナ表記のせいで、それらを英語やタイ語に置き換えて追加的な調査をするために無用な労力を強いられたばかりか、貴重な時間を無駄にすることにもなった。こんなことなら、最初から日本語の専門書なんか参照せずに、タイ語の文献だけを使ってキーワードをピックアップしておくんだった。

タイ語の英字表記とカタカナ表記

2005.05.12

このような見当違いも甚だしい恥ずかしすぎるタイ語のカタカナ表記は、著名なタイ関連の専門書の上位10冊を例にとってみても枚挙に暇がない。この日記では、この分野で権威のある先生方に対して喧嘩を売ることは意図していないため、基礎的なタイ語の知識さえあれば、すぐに「不自然だ」と分かるカタカナ表記の例について、文献の名前を伏せたまま列挙羅列してみたい。

  1. サムートサーコーン
    タイ中央部にある県の名称 สมุทรสาคร のこと。タイ語では「サムットサーコーン」と発音される。それぞれサムットは海という意味、サーコーンは海や河川という意味の単語だ。サムートサーコーンでは「暗黒の海」になってしまう。
  2. ラコンナーイ
    宮廷舞踊 ละครใน のこと。タイ語では「ラコーンナイ」と発音される。ラコーンは舞台演劇、ナイは内裏(宮廷内)の意味の単語だ。そのままでは意味が通じないので、少し気を利かせて「ラコーンナーイ」に訂正してあげたとしても、「男性舞台劇」という意味になってしまう。同性愛者向けの見世物か何かのことだろうか? そんなの、もし存在していたところで絶対に見たいとは思わない。
  3. ロイカトーン
    灯篭流し祭 ลอยกระทง のこと。タイ語では「ローイグラトング」と発音される。タイの祭り拍子にある「ローイ、ロイ、ガトーング」という歌詞をそのままカタカナに起こしてしまったのだろうか? それに「ロイ」って、何なんだよ!? タイの少数民族、カレン族の人たちが名乗っている人の名前のようだ。それにロイカトーンじゃ「ロイさん、お釣りですよ」という意味なってしまう。そもそも、曲にあわせて伸ばして発音しているものをカタカナ表記にしてどうするんだよ! 論文のなかでカラオケする馬鹿がどこにいる!!

ここで例に挙げたような見当違いも甚だしいタイ語のカタカナ表記は、学術論文のみならず、さまざまな日本語の刊行物にも頻繁に登場し、僕たちタイ語学習者たちを楽しませるのに一役買っている。

こんなにメチャクチャなタイ語を書いておいて、どうしてその違和感に気づかないのだろうか? タイ語がまったく分からないまま研究を続けているのだろうか? どこの言語で書かれた文献をもとにして日本語の論文を書いているのだろうか? まったく不思議でたまらない。わざわざこんな子供だましの恥ずかしすぎるカタカナ表記を連発して、英語の論文を要約しているだけという筆者にとって不都合な真実を広く世間一般に露呈させてしまうぐらいなら、いっそのこと英語の論文にあるローマ字表記(アルファベット)をそのまま転記してくれたほうがよほど役に立つ。

高校の歴史教科書に登場するタイの旧国名 SIAM = สยาม は「シャム」と表記されているのに、どうして高架電車駅の SIAM = สยาม をカタカナで表記すると「サイアム」になるのだろうか? 英語とタイ語はまったく同じ表記なのに、なぜか日本語に起こすと別のものになってしまう。それなら、はじめからタイ語の発音に倣って「サヤーム」と書いておけばよいものを。

耳、腐ってんじゃないの?

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。