タイの自動車保険

「自賠責保険(ポーローボー)だけって絶対にヤバいって。任意保険にも入っておかないと、事故を起こしたときの示談から車両輸送の手配まで、ぜんぶ自分でやらなくちゃいけなくなるのよ。先月、わたしの友達が事故を起こしたんだけど、そのときの示談の相手は約束の場所まで現金を受け取りに来ないし、住所も分からないしで本当に参ったわ。ほら、周りの風景をよく見てごらんなさい。こんなところで事故が起きたらどうするのよ? 悪いこと言わないから、いますぐ任意保険に入っておきなさい」

タイ国道33号線は、ナコーンナーヨック県からサゲーオ県へ伸びる、片側一車線の見通しの良い田舎道だった。見渡すかぎりの焼き畑の海が広がっており、2階建ての掘っ立て小屋が遠くのほうにまるで米粒のように見える。最後に通過したガソリンスタンドは何十キロ手前だったろうか。

ここのところ頻発している例外的な用事と慢性的な時間不足のせいでストレスをため込んでいたため、きょうは休講日を利用してタイとカンボジアの国境にあるカジノ街、ポーイペートへ友人と出かけた。

この友人は、出発直後から僕のクルマが任意保険に加入していないことを知ってひどく気にかけていた。いつしか、いまパソコンの前でインターネットをしていそうな友人に電話をかけては保険会社の電話番号を検索させて、助手席に座ったまま自分で保険会社に電話をかけては保険料や保証の内容について情報を収集するようになっていた。さらに、クルマに積んである書類一式を友人があらためたところ、自賠責保険の契約期間が本日付で満了となることが判明し、いよいよ本気で保険代理店を探しに行かざるを得ない状況になった。

周囲に畑しかない田舎道を、自動車保険の代理店が掲げている พ.ร.บ.(ポーロ―ボー, 自賠責保険)という看板を探しながら走っていたところ、プラーヂンブリー県とサゲーオ県の境界付近で自動車保険最大手「ウィリヤ損害保険」の代理店を見つけた。

友人によると、ウィリヤ損害保険の保険料は他社より15%ほど高いが、事故が起きたのときのケアや保証金の支払いについては定評があり、提携している自動車修理工場の数もダントツに多いという。

さっそくクルマを路肩に停めて、保険代理店へ行って自賠責保険(ポーローボー)と第1種自動車保険(任意保険)に加入した。

タイの自賠責保険は、自動車被害者保護法(1992年)で加入が義務付けられており、無保険者には10,000バーツ未満の罰金、加入証書を正しく設置していない者には1,000バーツ未満の罰金が科せられる。掛金は年間700バーツ(税抜)で、補償内容は被害者1人につき最高50,000バーツ(1件につき最高5,000,000バーツ)となっている。

タイの任意保険は、第1種自動車保険と第3種自動車保険に大別される(ウィリヤ損害保険では第2種自動車保険を取り扱っていない)。

第1種自動車保険の補償範囲は、①加入車両の内外にいる被害者の生命と身体、②加入車両の外にいる被害者の財産、③加入車両の損害、④加入車両の盗難および火災(自動車評価額48万バーツに対して80%が支払われる)。どのプランの保障内容もたいした違いはないが、僕が加入した「プラン110」は、加入車両の外にいる被害者1人につき最高100,000バーツ(1件につき最高10,000,000バーツ)、対物1件につき最高200,000バーツ(*1)、加入車両の中にいる被害者1件(6人)につき最高50,000バーツ、保釈金費用1件につき最高200,000バーツ。掛金は年間23,000バーツだった。

*1 対人より対物の補償額のほうが高めに設定されていることに注目してもらいたい。タイではたとえ相手が任意保険に加入していても、死んでしまったらたったの10万バーツしか支払われない。犬死を避けるためにも、タイの歩道を歩くときには細心の注意を払いたい。また、医療費の方が死亡慰謝料より高く付くため、運転手が第三者を負傷させたときに、さらに車両を前後させて完全に殺してしまうケースもある。

第3種自動車保険は、第1種自動車保険の補償範囲限定版で、上記の①と②(人的損害)は補償されるが、③と④(物的損害)は補償の対象外となっている。保険代理店によると、掛金は年間3,000バーツ(プロモーション期間中の料金)。

バンコク都内の保険代理店に尋ねたところ、初回登録後10年以上が経過しているクルマ(僕のクルマ)は第1種自動車保険に入れないという。けさもタイ商業銀行の女性行員に「私どもでは初回登録後7年以上が経過している自家用車の第1種自動車保険は承っておりません。第3種自動車保険でしたらお受けできますがいかがでしょうか?」と言われた。

第1種自動車保険のように自車両を修理できる保障内容の場合、本来であれば契約前に加入者の車両に傷があるか確認するべきだが、保険代理店の女性店主は何もチェックせずに「検査済み」欄にサインしてしまった。

「田舎だから万事についてイイ加減、ってことなのかしら? バンコクだったら、こんなことは絶対にあり得ないわ。でも、せっかくだから、来週にでも、わたしの親戚が営んでいる自動車整備工場へ行って後部のバンパーにある大きな傷を直しましょうよ。ビタ一文失うことなく、新車の輝きを取り戻せるわよ」

午後1時すぎにバンコクを発ち、途中サゲーオ県で自動車保険に加入して、午後6時半にアランヤプラテート国境に到着。タイ側の国境にあるローングルア市場の駐車場にクルマを預け(1日150バーツ)、徒歩でカンボジアへ入国した。国境の中間地点で物乞いの子どもたちにカバンのなかを何度も漁られそうになったが、なんとか防ぎ、カンボジア側のポーイペートで入国審査を受けてから大急ぎでホテルへ駆け込んだ。

アランヤプラテート国境からタイを出国する場合、外国人には一度カンボジアへ入国することが義務づけられている(違反すると罰金)が、タイ人はカンボジアに入国することなくタイを出国後そのまま帰国することができる(カンボジアの入国査証料1,000バーツを節約できる)という。

ポーイペートのカジノでは、換金不能チップ(*2)を買うことで宿泊費がタダになるプロモーションを行っている。カジノホテル Holiday Poipet の宿泊料金は800バーツだったが、400バーツの換金不能チップがついてきて、それをブラックジャック台で全部使ったら100バーツ増えたので、実際に使った金額は300バーツということになる。

*2 ホテルによって異なるが、だいたい15,000~35,000バーツの換金不能チップを買うと宿泊料金がタダになる。換金不能チップは、ゲーム中に換金可能チップに代えながらプレーしていけば、最終的な勝ち負けに応じて手持ちのチップを換金できるようになる。

この国境のタイ側にある入国管理局には、「(タイ国の)公務員は法律により、出国前に所属官庁に届け出ることが義務づけられています」という告知のほかに、「もしタイ人がカジノ目的でカンボジアへ入国して生命または財産の危機にさらされた場合、タイ当局は保護することができない可能性があります」というタイ語の警告文が貼られていた。

数日前、ポーイペートのカジノでは、タイ人9人が電子機器を不正に操作して90,000,000バーツをだまし取り、そのうちの数名がカンボジア当局に逮捕・拘束されたという。

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。