娼婦に例外はあるか その3

「大学で声をかけてくるオトコだって結構いるのよ。でも、こんな仕事をしていると社会からは受け入れてもらえないし彼氏だって作れない。仕事中は電話に出ちゃいけない決まりになっているから、仕事のことを隠して誰かと付き合ったところで、どうせ浮気をしていると疑われて面倒なことになるだけだし・・・・・・ってことで、次の彼氏は日本人に決定!! 日本人のオトコって、こういう事情に結構疎いところがあるから、きっと気楽なお付き合いを楽しめるでしょうね」

――いやあ、僕も日本人だけど、「こういうの」が彼女ってゆうのはご免被りたいよ。

ここ数週間、友人の仕事の関係でカラオケスナックへ行く機会が急増している。その費用はもちろん友人の会社の接待交際費で処理されているが、せっかくだから意味のあるものにしたい。そう考えて、カラオケスナックへ行くときには、楽しむことより情報収集のほうを優先させている。

夜、タニヤ通りにあるスナック「屋根裏」へ、友人の会社で働いている日本人従業員と出かけた。ウワサによると、この店にも現役の大学生や OL がホステスとして多数在籍しているという。

フロア責任者(いわゆるママさん)の勧めで指名したファーストちゃんは、スィーパトゥム大学経営学部の2年生で21歳。タイ北部パヤオ県の出身で、両親はグワイッティアオ屋を営んでいる。高校卒業後にグルングテープ大学へ進んだが、成績不良のためラングスィット大学へ移り、そこでも授業について行けなくて、いま通っているスィーパトゥム大学に流れ着いた。バンコク北部のアパートで友人と2人暮らしをしており、学費(年間約4万バーツ)と生活費を工面するためにこの仕事をしているという。

この店で酒を飲むときの予算は1時間あたり1,200バーツとやや割高だが、娼婦のなかでは比較的教養があるとされている現役の大学生や OL を数多くそろえ、すべてのホステスを「連れ出し不可」にすることで、日本人向けのカラオケスナックとしては初めて日本人の男性客にまともな(?)恋愛の機会を提供したことで知られている。ところが、「連れ出せない=買春できない」と結論づけてしまうのは、あまりにも安直すぎる。ホステスを店の外へ連れ出すというシステムがないだけで、そんなものは閉店前の秘密の交渉次第でなんとでもなる。ホステスになると決めた時点で、誰しも世間体を捨ててカネをゲットすることのほうを選んでいるからだ。

「ダメな子はダメな子ってすぐに分かるよね。話の内容もそうだけど、なにより使っているタイ語が明らかにヘボいから。タイ語が分からない日本人には『知らぬが仏』ってことで構わないんだろうけど・・・・・・」

僕も友人と同意見だ。だからこそ、自分に選択権があるときには必ず「大学生がホステスをしているカラオケスナック」をリクエストすることにしている。「脳みそ的個人差」があまりにも大きすぎるタイでは、それなりの話し相手を選ばないと本当に退屈する。

しかし、その相手が現役の大学生であるかどうかに関わらず、前出のファーストちゃんが自ら認めていたように、社会的に受け入れられていない娼婦を自分の彼女として誰かに紹介するのはあまりにもダサすぎるし、どう頑張って娼婦であることを隠そうとしても、一言でもタイ語を話せばすぐにバレてしまう。

自分さえ納得できればそれで良しと考えるのか、それとも大多数に認められなければ意味がないと考えるのかは個人の自由だが、長年日本人向けのカラオケスナックに通い詰めてきたさらに別の友人は、それとは異なる観点から娼婦と交際することの問題点を指摘している。

「タイ在住の日本人にとって、ホステスと個人的に親しくなることはそれほど難しくない。彼女たちは『日本人のお嫁さん候補生』として存在しているんだから、こちらが黙っていても向こうのほうから勝手に接近してくるはずだ。逆にホステスと親しくなれないという方がオカシイ。しかしまあ、売春の善し悪しについてはともかく、『カラオケスナックで働こう』と考えて、実際に実行してしまうという、彼女たちの『普通じゃない人間性』に問題があるんだよ。だから俺は、夜の女たちは結婚相手として適切じゃないと言っているんだ」

また、あるクラスメイトはこう話していた。

「Go Go Bar とかで働いている娼婦たちが、どうしてあそこまで外国へ移住することにこだわっているか知ってる? 彼女たちは、タイの階級社会的にはスーパーヘッボーい階層にいて、タイにいる限りこれを覆すことなんて絶対に不可能だから、誰か適当なファラン(欧米人)と結婚して平等社会のアメリカとかに移住しちゃえばすべて帳消しになって新しい自分になれると考えているんだよ。精神的にも経済的にもそれがベスト。娼婦たちがとっている戦略にも、案外それなりの合理性があるのかもね」

そのような超特殊な環境にいる一部のタイ人女性だけを見て、まるですべてのタイ人を理解したかのような気になっている日本人があまりにも多いことに、僕は心底ウンザリしている。娼婦が平均的なタイ人であると勘違いしている一部の日本人は、まともな生活を送っている大多数の存在を無視することでタイ国民全体を侮辱し、まともなタイ人女性と結婚した日本人に対しても不当で深刻な不利益を与えている。

(でも、こんなところに頻繁に出入りしていると、本当にそれが「タイ人のすべて」のように思えてきてしまうから不思議だ。実のところ、それは「タイ人のすべて」なんかではなく、自分が属しているタイ人の最下層階級のすべてにほかならないのだが、これがタイの階級社会のスゴいところで、横方向へのつながりは広くても縦方向の交流がまったくないから、いったんある階層に属してしまうと、ほかの階層がまったく見えなくなってしまう)

きょうはヂュラーロンゴーン大学へ行って東南アジア映画演劇論の講義に出席してから、サーラーデーング通りの BMH 病院向かいにあるイタリア料理店 6°(シックスディグリー)で夕食をとり、友人の案内で日本人向けの夜の歓楽街、タニヤ通りにあるカラオケスナックを3軒ハシゴした。

ABOUT US

ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。