タイの年功序列主義と近代史

朝、授業開始ぎりぎりの時間に教室へ駆け込んだところ、クラスメイトたち15人が木曜日に提出するペーパーについて話し合っていた。ところが時間の経過とともに単なる雑談へと変わり、次第に英会話クラブような雰囲気になっていった。

授業開始から50分が経過して、話題も尽きて時間つぶしにも飽きたところで、この講座は休講になったと判断して、クラスメイトたちと大学構内バス2号線(2バーツ)に乗って、パヤータイ通りをはさんで文学部の校舎とは反対側にある中央図書館へ移動し、その近くにある学生食堂で朝食をとった。

朝食をとりながらクラスメイトに先月の大学めぐりを始めたころから気になっていた「新入生歓迎行事」のことについて尋ねてみた。この行事は新入生同士の親睦を深め上級生と知り合いになる機会を作ることを目的として毎年行われているものだが、実際には上級生が新入生を服従させて無茶なことを強いるという、上級生にとっての娯楽的意味合いの方が強い。

「タイは年功序列の社会だから、どんなに無茶なことでも上級生の指示には従わざるを得ないの。それでも文学部の新入生歓迎行事はまだソフトな方で、私がいた政治学部なんて本当にハードだったわよ。先輩に会ったら必ず手を合わせて挨拶しなくちゃいけないし、制服の着こなしとかが少しでも生意気だと定期試験のときに過去問を融通してもらえなくなったりして酷い目に遭ったわ。聞いたことがあるかしら? ヂュラーロンゴーン大学で上下関係が特に厳しいのは政治・法・教育の3学部よ」

ラングスィット大学の新入生歓迎行事

ラングスィット大学の新入生歓迎行事

新入生歓迎行事で行われる「集団ゲーム」はなかなかに過激なもので、クラスメイトが新入生だったときには、箱の中にカエルなどのゲテモノをいれておいて、その中身を手探りで当てるゲームをさせられたという。先日、友人たちと立ち寄ったラーチャパット高等教育機関のスワンドゥスィット校では、上級生が構内を歩いている女子大生をナンパしてくるよう下級生に強要している光景も見られた。数年前には、この高等教育機関の新入生合宿で、上級生が泥酔した新入生を海に飛び込ませて溺死させた事件が大きく報じられて社会的な問題にもなった。報道によると現在、新入生の女子学生を四つん這いにさせて、その正面で男子の上級生が長時間腰を前後させ続けるというラングスィット大学で行われているゲームが社会的に注目を浴びており、タイでは新入生歓迎行事そのものの要否が盛んに議論されている。

つぎに、タイの中等教育学校6年生(高校3年生)向け歴史教科書の内容があまりにも貧弱なことについて話題をふってみた。真実に近い事実が書かれているタイの近代史に関する文献はタンマサート大学の図書館まで行かないと入手できない。歴史観も、モムラーチャウォング(王子の孫に与えられる称号)・クックリット・プラーモート元首相を中心とする王党史派とタンマサート大学政治学部の学者たちを中心とする左派に分裂している。

「タンマサート大学の各学部が今年の6月に王宮周辺にあるタープラヂャンから郊外のラングスィットセンターへ移転したんだけど、それを嫌った教授陣が最近ヂュラーロンゴーン大学に移ってきているのよ。でも、ヂュラーロンゴーン大学は王の名を関していることからも分かるように、とても保守的な大学だから、今後も体制寄りの政治史を教え続けるんじゃないかしら。もし教科書にないタイの近代史を知りたいのなら、よい本を知ってるから紹介してあげるけど?」

こうして図書館の蔵書「タイ政治史 2475年-2500年」という分厚い本を又借りして帰宅した。

午後、東南アジア研究科の必修講座「東南アジア文明史」でアンコール朝成立までの東南アジア史を学んでから、夕方の公開講座「集中ミャンマー語」をサボり、友人たちと合流してホーガーンカー大学の前にあるパブ街へ繰り出した。

僕たちは店に到着すると学生たち15人と握手をしながらいつもの席へ向かい、店に預けているウイスキーのキープボトルを持ってくるようサーバーに言った。この店は、僕たちにとって一日の疲れを癒す憩いの空間となっている。

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。