2004年6月26日(土)
バンコク都内には無数の野犬が生息している。飼い主の手に負えなくなった成犬が捨てられるケースが多いのは日本と同じだが、日本であれば保健所によって捕獲、安楽死させられる野犬たちも、タイでは命を大切にする仏教観や保健当局の予算不足などから、そのまま野放しになっている。
そのためバンコク都内の野犬は増加の一途をたどっており、いまや「野犬にはくれぐれも気をつけろ」という警句はバンコク在住の日本人にも一般常識として広く知られるようになった。特にタイでは予防接種が義務付けられていないため狂犬病に感染している野犬も多く、万一にも噛みつかれてしまったら、直ちに病院へ行って検査を受けないと死に直面する。
バンコクでは2種類の野犬が夜道を徘徊している。ひとつは保健省管轄の所有者不明犬(大部分は雑種)、もうひとつは法務省管轄の日本産犬(大部分は貧困にあえいでいる)で、人間に噛み付いて狂犬病を伝染させるおそれがあることでは共通しているが、先天的に犬として生まれたか、後天的(仏教的?)に犬になったかという根本的な違いがある。
バンコクの野犬で特に始末に負えないのは、外国で生活していくために必要とされる最低限の能力すらない生後35年以上の日本産犬(以降「カミツキ犬」)で、その日の食事にありつくのにも難儀しており、当然、事態を改善させるための具体的な行動計画も持ち合わせていない。にもかかわらず、人間としてのプライドに固執し、過去における愚行、現在における惨状、未来における不安を打ち消すために、実力の伴わない自尊心を無理矢理満たそうとするから本当に
カミツキ犬は、なにも好きこのんで、このような不毛な自己正当化を続けているわけではない。自分はタイに精通していると自分自身に言い聞かせて、タイで送ってきた無為な日々にそれなりの意義付けをしてやらないと、過去における愚行や将来における不安を十分に打ち消すことができず、自分の人生までが否定されてしまう。年の功があるだけ自分のほうが優れていると錯覚していることも多く、タイ人とまともに会話した経験すらない ―― 以前の問題として技術的に不可能な ―― くせに図々しくもタイに関する誤ったモウソウや思い込みを偉そうに語るなど、惨めな窮状を忘れて壮大な自己満足へと逃避する傾向がある。
日本人タイ移住者は、現地で生活していくため、現地採用者(あくまでも海外子会社に属しており日本国内とはまったく別の待遇で働く日本人従業員)という身分での就職を目指す。ところが、現地採用者(留学生日記2004年6月9日参照)には、本国から派遣される日本人駐在員の業務を補助できるレベルのタイ語や工業技術が要求されるため、何の取り柄もないカミツキ犬の就職口なんかあるわけがない。バンコク都内にわんさかいる「タイ沈没」(日本人無業者もしくは事実上の無職, 失業者)たちの存在がそれを如実に物語っている。
カミツキ犬は、バンコクの厳しい労働市場で淘汰され、次のような事態に直面しながら、不幸な人生を歩み続けている。
カミツキ犬には、タイ語を習得する気力も能力もないため、①タイ人とのコミュニケーションで深刻な挫折感を味わうが、タイ人がバカなせいでコミュニケーションが成立しないと自己を正当化する。しかし、日本人現地採用レベルのタイ語力がないため有利な条件で雇用してもらえず、②平均月収がバンコク勤務のタイ人会社員平均(大卒女子25歳で20,000バーツ, 大卒女子30歳課長で36,000バーツ)を下回り、都市部のタイ人以下の生活を強いられ、③タイという極端な階級社会でタイ人労働者またはそれ以下並みの扱いを受けるが、「自分は日本人だから所得階級の如何に関わらず優遇されて当然」と妄想することで自己を正当化する。特にカミツキ犬が高等教育を受けていない場合、④タイ人大卒者に異常なまでの敵愾心や嫉妬心を抱き、
しかし、それもこれも事前の検討を怠ったカミツキ犬の自業自得である。タイでは日本人のコンビニバイトや清掃バイトが外国人労働者規正法で禁止されており、とうぜんダメな日本を保護するための制度もない。
夜、タイの現地採用者32人が参加した J-Walker の飲み会が終わってから、フリーライターの男性が住んでいる安アパート「
途中まで、軽い話で盛り上がっていたが、突然、1匹のカミツキ犬が精神障害を引き起こし、日頃の憂さを晴らすかのように容赦のない攻撃を仕掛けてきた。
「君はねぇ、あまりにも視野が狭すぎるよ。それにさぁ、チュラロンコン大学なんて日本人の誰が知っているというの? 僕のようなオジサンには君のようなイケメンを見ているだけで気分が悪くなってくるんだよ」
室内は一気に静まり返り、フリーライターの男性に退室を命じられた。これだけの愚痴を並べながらも、実はこういった不思議な事態に陥る可能性を当初からそれなりに想定していたため、反論せずに笑顔でその場を立ち去った。誤解であれば釈明することでなんとか和解の道を模索することもできるだろうが、嫉妬という個人の信仰における仇敵に指定されてしまっては、もはや手の施しようがない。その場にいた女性によると、あまりのことに唖然として5分後には引き揚げたという。落ちるところまで落ちてしまったカミツキ犬が自己を正当化するために現実を無視または否定するのはやむをえないが、それを他人に語ったところで支持されるはずがない。あまりにもバカげている。
今後はタイ在住の日本人との付き合いにはより一層の注意を払い、現地での友人をきちんと取捨選択することで野犬のエサにならないよう努力したい。なにより、アホの代名詞と言っても過言ではないカミツキ犬なんかにガブッとやられてしまっては、自分自身が気の毒でならない。
ほおら、汚い病気を染されて、大人げなくこんなにも長い愚痴を書き連ねてしまったではないか。
将来、僕は他人に嫉妬心を抱かず、精神的に充足した生活を送れるような大人になりたい。
「バンコクでは野犬にはくれぐれも気をつけろ」
つまり、そういうことなんだろう。



金融機関(社内SE職)を退職後、タイ国立ヂュラーロンゴーン大学文学部の集中タイ語講座を修了。米国語学留学を経て、同大学東南アジア研究科で修士号を取得。現在、日本国内の専門商社で海外営業に従事。
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