通関賄賂 200 ドル

タイには「タイ人同士助け合い」(コンタイチュワイガン)という言葉があるけれど、タイの公的機関は外国人には厳しいのにタイ人にはとことん甘い。だからタイで外国人が生活するのは決して楽ではないし、ましてや優遇されると期待するのは見当違いもいいところだ。

もしタイで自分が優遇されていると感じているなら、それはきっと平均的なタイ人より多くの金を支払っているからだと思う。つまり平均的なタイ人と同じぐらいの出費しかしていないと、タイ人から不利な扱いを受け、裕福なタイ人にも圧倒されることになる。

こうした憂き目を免れるためには、タイ語を話してタイの文化を尊重することで、タイ人と同化するしかない。外国人として扱われているかぎり、ありとあらゆる局面で不利な立場に強いられることになる。仮に同化に成功したところで若干マシになるだけで、外国人の不利を覆せるわけじゃない。どうあがいたってタイのパスポートや国民ID(バットプラチャーチョン)は手に入らない。

夜、ロサンゼルスにあるシェアハウスのタイ人の同居人とバンコク・ドーンムアング国際空港に降り立った。同居人はアメリカから持ってきたゴルフクラブ21セット(560,000バーツ分)を6つのゴルフバッグに分けて持ち込み、バンコク市内のゴルフショップへ転売することで320,000バーツの利益を期待している。

入国審査を済ませてから、同居人は「申告なし」で通関するのにゴルフバッグ6つは多すぎると考えたようで、手荷物受取場でそのうちの二つを僕に預けた。

同居人は税関でタイのパスポートを提示して無事通過できたけど、僕が日本のパスポートを提示したところ旅行者の荷物としては多すぎると思われたようで税関職員からゴルフバッグの内容物について厳しく問い詰められた。事前に同居人から指示を受けていたとおり、英語で「それぞれダンボール箱のなかには被服品、ゴルフバッグのなかにはゴルフクラブが入っています」で答えたところ、X線装置でゴルフクラブの中身を詳しく調べられた。同居人は簡単に通関できると信じていたようだけど、いままさに密輸容疑者として逮捕されようとしている。

“มิน่าล่ะ ไม่ใช่ของเค้าหรอก เอามาขายแน่ๆ”
(ミナーラ マイチャイコーングカオローク アオマーカーイネーネー)
「やっぱり! 彼の私物のもんか。売るために持ち込んだのに決まってる!」

税関職員からゴルフバッグを開けるように求められたけれど、同居人は僕が考えていたより賢かったようで、おかげで責任放棄する道が開けた。

「実はこの荷物、一緒にアメリカから来た友人の私物で、このカバンの鍵も友人が持っているんですよ。もう少ししたら出てくると思いますので、それまでのあいだお待ち下さい」

そんな話を税関職員としていたところ、同居人は税関を素通りして出口へ向かって歩いていた。ここで声をかけてしまったら、今まさに通関に成功しようとしているほかのゴルフクラブセットにまで被害が及んでしまうため、椅子に座って同居人が戻ってくるまで待った。

10分後、同居人が手ぶらで戻ってきて贈賄の金額について交渉が始まった。

税関職員A:「これって、どれくらい価値があるんだ?」
同居人   :「300ドルくらいで買いました」
税関職員B:「300ドルって全部の値段か?それとも1セットあたりの値段か?」
同居人   :「……全部の値段です」
税関職員A:「そんなわけないだろ?1セットあたりの値段だよな?」
同居人   :「……はい、そうです」
税関職員A:「ゴルフクラブの関税率は30%だが、これ全部で何セットあるんだ?」
同居人   :「だいたい6セットくらいです」
税関職員A:「じゃあ課税カウンターへ行って1800ドルの30%(540ドル)を支払ってくれ」
同居人   :「実は……私もアメリカから戻ってきたばかりでバーツを持っていないんですよ。200アメリカドルなら今すぐ払えますけど」
税関職員A:「そういうのは最近厳しくてダメなんだが……」
同居人   :「まあ、そう言わずに……」
(ほかの荷物に隠れて周囲から見えない位置にあった職員の手元へ100ドル紙幣2枚を差し出す)
税関職員A:「う~~ん……」
(周囲にいたほかの2人の税関職員を見渡して目で同意を求める)
税関職員C:「あ~~、もういいから、ほかの職員に見つかる前にさっさと行け!」
(一番遠くにいた税関職員が僕たちを追い払うような仕草をした。)

ちなみに同居人が戻ってくるまでの10分間のあいだに税関を通過した約150人のうち、X線検査を受けたのは日本人7人に対してタイ人は1人だけだった。タイ人旅行者の荷物はどれも巨大で怪しかったのにほとんど調べられていなかった。はなはだしい不公平だけど「タイ人同士助け合い」だから仕方ない。

その後、空港まで迎えに来た親族のクルマで同居人の実家に行き、午前3時頃まで話し込んでから子供部屋にある2段ベッドの上段で寝た。

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。