他人に厳しく自分に甘く。タイには「タイ人同士は助け合い」という言葉があるが、タイの公的機関も外国人に厳しくタイ人には甘い。だから、外国人である僕たちがタイで暮らすのはそう楽なことではないし、外国人だから優遇されると期待するのは大間違いだ。是非とも肝に銘じておきたい。
もし自分が優遇されていると感じているのなら、それはたぶん平均的タイ人よりも多くの金を払っているからだろう。つまり、平均的タイ人と同程度の出費でタイで暮らしていては、タイ人よりも不利な扱いを受け、もちろん裕福なタイ人にも圧倒されることになる。
こうした憂き目から免れるには、彼らとの同化を図るしかないだろう。彼らの言語を話し、彼らの文化を重んじなくてはならない。それができなければ、僕たちは外国人として扱われ、ありとあらゆる局面で不利な立場に追いつめられるだろう。それにもし仮に同化に成功したところで、若干マシになるというだけで、外国人であるという不利を覆せるわけじゃない。どうあがいても国民ID やタイのパスポートは手に入らない。
今晩、僕はアメリカでのタイ人ルームメイトとともに、バンコク・ドーンムアング国際空港へと半年ぶりに降り立った。ルームメイトは21セットものゴルフクラブを小遣い稼ぎに持ち込もうとしている。アメリカで約560,000バーツ(約13,000ドル)で購入したものを約861,000バーツで転売することで、約320,000バーツの利益を得られると見込んでいる。
入国審査を済ませた僕は、手荷物引渡場でルームメイトからゴルフクラブバッグ6個のうち2個を受け取った。ルームメイトはバッグ6つが「申告なし」で通関するには多すぎると考えたようだ。
ルームメイトはタイのパスポートを提示して無事通関に成功した。一方で日本のパスポートを提示した僕は、係官に「旅行者にしては荷物の量が多すぎる」と思われ、内容物について厳しく詰問された。
ルームメイトからの事前の指示どおりに「段ボール箱のなかには被服品、カバンにはゴルフバッグが入っています」と英語で答えたが、すぐにカバンを X 線装置のなかに放り込まれてしまった。ルームメイトは簡単に通関できると信じていたようだが、僕は密輸入犯としていまにも逮捕されようとしている。
“มิน่าล่ะ ไม่ใช่ของเค้าหรอก เอามาขายแน่ ๆ”
「やっぱり! 彼の私物のもんか。売るために持ち込んだに決まってる!」
僕の嘘はあっさりと露見し、係官からカバンを開けるように求められた。しかし、カバンには鍵がかかっている。クラスメイトはどうやら僕が考えていたよりも賢かったようだ。これで、僕の責任放棄への道が開けた。
「この荷物、実は一緒に来た友人の物で、彼がこのカバンの鍵を持っているんですよ。彼は数分後に出てくるでしょう。それまでの間、もうしばらくお待ち下さい」
そんな話を係員にしていたところ、クラスメイトが税関を素通りして出口へと向かっていた。ここで僕が彼に声をかけては、彼が今まさに無事通関させようとしつつある、ほかのゴルフクラブセットにまで累が及んでしまう。そんな彼に声をかけるのは愚の骨頂だろうと思い、彼が戻ってくるまで椅子に座って待つことにした。
そして10分後、ルームメイトが手ぶらで戻ってきた。ここからが贈賄交渉の始まりだ。
| 税関職員A |
: |
「これって、どれくらい価値があるんだ?」 |
| 友人 |
: |
「300ドルくらいで買いました」 |
| 税関職員B |
: |
「300ドルってこれ全部の値段? それとも、1セットの値段?」 |
| 友人 |
: |
「・・・全部の値段です」 |
| 税関職員A |
: |
「そんなわけないだろ? 1セットの値段だよな?」 |
| 友人 |
: |
「・・・はい、そうです」 |
| 税関職員A |
: |
「ゴルフクラブの関税率は30%。で、これ全部で何セットんだ?」 |
| 友人 |
: |
「だいたい6セットくらいです」 |
| 税関職員A |
: |
「じゃあ、300ドル×6セットの30%を課税カウンターに行って払ってくれ」 |
| 友人 |
: |
「実は・・・僕も今日アメリカから戻ってきたばかりで、バーツを持っていないんですよ。200アメリカドルなら今すぐ払えるんですけど」 |
| 税関職員A |
: |
「そういうのは最近厳しくてダメなんだが・・・」 |
| 友人 |
: |
「まあ、そう言わずに・・・」 (ほかの荷物に隠れて他人から見えない位置にあった職員の手元へ100ドル紙幣2枚を差し出す。) |
| 税関職員A |
: |
「う~~ん・・・」 (周囲にいたほかの2人の税関職員を見渡し、目で同意を求める。) |
| 税関職員C |
: |
「あ~~、もういいから、ほかの職員に見つかる前にさっさと行け!」 (一番遠くにいた税関職員が僕たちを追い払うような仕草をした。) |
ちなみに、ルームメイトが戻ってくるまでのおよそ10分間に通関した約150人のうち、 X 線検査を受けたのはタイ人1に対して日本人7だった。どうやら、梱包されたままの新品が課税の対象になったようだ。今後、精密機械を日本から持ち込むような場合には、一度ケースから出して、ケーブル類をグジャグジャにしてから持ち込もうと思う。
それにしても、タイ人の荷物はどれも巨大で怪しかったのに、なぜ調べられなかったのだろうか。甚だしい不公平だが、「タイ人は助け合い」なのだから仕方ない。
その後、空港まで迎えに来たルームメイトの親族のクルマで実家に行き、午前3時頃まで話し込んでから、彼の部屋にある2段ベッドの上段で寝た。