日本人が行くタイ人向け国立大学付属総合病院

海外で病気にかかると厄介だ。外国語で自分の症状を伝えるのが難しいのはもちろん、国民健康保険が使えないため医療費も莫大になる。もし海外旅行傷害保険に加入しておらず自分に十分なタイ語力がない場合には文字通りの一大事業となるだろう。

あさ、日本人女子留学生に電話したところ、38℃以上の高熱で寝込んでいた。海外旅行傷害保険には加入しておらず、日本語通訳がいるような高級な私立病院へ行くためのカネもないという。

午前中の授業終了後、国立マヒドン大学医学部附属ラーマーディッボディー病院へ日本人留学生と日本人の元看護婦と出かけた。この病院はタイ人のあいだでも定評がある。

院内の表示はすべてタイ語で、外国語通訳サービスも英語併記もない。待合室はオープンエアーでエアコンもなく、患者たちは木のベンチで順番待ちをしていた。

初診の手続方法について一般外来受付で聞いてみると、受付の看護婦がナチュラルスピードのタイ語で説明してくれた。ゆっくり話してくれないし、英語か日本語かも選ばせてくれなかった。外国人に不慣れな、いかにもタイ人向け医療機関の看護婦だった。

「通常、一般外来の初診受付は午前中いっぱいで終了しますが、あちらの6番窓口へ問い合わせてみてください。もし受付が受理されたら目の前にある階段を上がって2階の総合診療科(ホームドクター科)へ行ってください」

受診票に患者の個人情報(パスポート, 住所, 電話番号, 保険の有無など)を書き込んで6番窓口へ提出した。付き添いのタイ語通訳(?)である僕の連絡先も書かされた。無事に初診受付は受理されて診察券とカルテのファイルを手に入れた。

総合診療科の窓口で診察券とカルテのファイルを差し出すと「この名前ってタイ語でどう書くの?」と看護婦に聞かれた。タイでは外国人の氏名は英語で表記されるのが普通だけど、この看護婦はあくまでもタイ語表記にこだわり続けていた。

受付終了後に診察室前のベンチで順番待ちをしていたところ、名前が読み上げられて「呼び出された方から順番に2番診察室前の椅子でお待ちください」とタイ語で指示された。

順番はすぐに回ってきた。2番診察室へ日本人3人で入ると、若い女医は驚異的な速度で旧式の血圧計で日本人女子留学生の血圧と心拍数を測って胸部と背に聴診器をあてていった。一緒にいた日本人元看護婦はこんな短時間では正確なデータが得られないと首を傾げていた。

日本人留学生の症状を女医に説明して、薬によるアレルギーがないことも付け加えた。

そのとき医療関係のタイ語の語彙不足の問題に直面した。相手が友人なら「のどにある黄色くてネトネトしたものが気持ち悪い」と伝えれば痰が詰まっていると理解してもらえるが、さすがに医師相手にこんな表現も使えないから友人の日タイ辞典を引いた。痰は、タイ語で )เสมหะ(セームハ seěm hà というらしい。

医師は今回の症状について簡単な説明をしてから最後にクスリを出すと言って話を締めくくった。診察時間はおおむね3分程度。総合診療科の出口でオバさんにカルテファイルを渡したときに受け取った整理券を会計に提出した。

ラーマーディッボディー病院の会計はIT化が進んでいた。窓口の上部に液晶モニターが据え付けてあって、そこに整理番号と氏名と請求額が表示される。日本人留学生の請求額は297バーツで、内訳は外国人初診料250バーツ、診察料10バーツ、薬代47バーツ。安すぎる。外国人向けの高級病院と比較すればタダ同然だ!

会計終了後、薬局でクスリをもらって効用と使用法について説明を受けた。

国立マヒドン大学医学部附属ラーマーディッボディー病院はタイ最高水準の医師と医療機器を備えているのにメチャクチャ安い!!だけどナチュラルスピードのタイ語が聞き取れないと受診どころか受付すらできないだろう。

もちろん海外旅行傷害保険に加入しているのなら、間違いなく、日本語通訳付き、エアコン完備、待ち時間ほぼゼロの私立病院に行った方がよい。どうせタダだ。

ABOUT US

ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。