テレビドラマ「二世界放浪記」

午後9時、ペッブリー18街路にあるアパートでラム酒 Bacardi Breezer (69バーツ)を飲んでいたところ、興味深いテレビドラマを見つけた。

テレビドラマ「二世界放浪記」はタイ放送局3チャンネルで毎週月曜日と火曜日の午後8時15分から放映されている(シリーズ全17回)。

■ あらすじ

2000年、アユッタヤー史の研究者ブワブッサヤー(バンゴット・コングマーライ演)は、パリでアユッタヤー時代のフランス人宣教師が書き残した歴史資料を収集していた。ところがバンコク・ヂャーオプラヤー川をクルージング中の外国人事業家3人が、ワットアルン寺付近で要塞へ向かうアユッタヤー時代の艦艇200隻以上に遭遇して当時の奴隷が身に付けいていた衣服を持ち帰ったとの新聞記事を見つけて退職を決意。タイに帰国後、外国人事業家トゥティヤから見たままの話を聞いて、毎晩のようにヂャーオプラヤー川へ行って当時の遺品を探し続けた。

その3年前(1997年)、ブワブッサヤーの父バンポップは社長を務めていた投資会社がアジア通貨危機で倒産し、経済警察に追われて国外へ逃亡。ブワブッサヤーと母のヤーヂャイは残された資産を売却して債務の返済に充てた。富裕層向けのファッションショーで恋人チェーターがブワブッサヤーに別れを切り出し、その場で政治家の娘ピーチに声をかけた。ブワブッサヤーは、チェーターのクルマの後部座席に潜んで助手席のピーチを拳銃で脅して下車させるが、揉み合っている途中でチェーターに銃を奪われて川に飛び込み逃走を図った。

ブワブッサヤーが水面から顔を上げると、そこは1767年のアユッタヤーだった。上半身裸の恐ろしい男ティアン(ラウィット・トゥートウォング演)は茂みの中でサロン(ミャンマーの民族衣装)を履いたビルマ兵7人の首を刎ね、ブワブッサヤーに気付くとビルマ軍のスパイと疑ってあとを追った。ところがブワブッサヤーがビルマ兵にレイプされそうになっているところを見つけて救い出し、アユッタヤーへ連れ帰った。

ブワブッサヤーたちは絶体絶命の危機にあった。背後にビルマ軍が迫っているなか、近衛師団長ヂャーオプラヤーセーナー候の部隊がビルマ軍部隊の城内侵入阻止を口実にアユッタヤーの城門を閉ざしてしまった。ティアンの友人グレットとクワーンが出陣してビルマ軍部隊を全滅させると、ようやく城内に戻るのを許された。

ヂャーオプラヤーセーナー候の子ルワングチェート男爵は、好きだったレーライがティアンと結婚したため、ティアンが戦死したとの虚報を流し、遺体を回収するために城を出たレーライをビルマ兵に変装してレイプ・殺害した。その後、財産目的でティアンの妹ソムホームにアプローチするが、ソムホームはモムメーティー親王に好意を寄せていたため断られた。ルワングチェート男爵の妹チョンコーはティアンを好いていた。ティアンの母ヂャンホームは華僑商人スワハイと結婚したため周囲から蔑まれた。

ティアンは上流社会から妬まれていたが、父スワハイの死後、莫大な遺産を背景に朝廷内における影響力を着実につけていった。ヂャンホーム付きの奴隷になっていたブワブッサヤーは、アユッタヤー社会の衰退を目の当たりにしており、ディアンがヂャーオプラヤーセーナー候と出陣したときにはその身を案じて迎えに行った。

ルワングチェート男爵がティアン戦死の虚報を流すと、極端に治安が悪化していたアユッタヤーの人々がティアンの屋敷に殺到して財産を略奪した。ティアンはヂャーオプラヤーセーナー候とルワングチェート男爵がビルマ軍と内通して開城を企てているのを事前に知って、モムメーティー親王にふたりを逮捕するよう上申した。ところがルワングチェート男爵は逃げ延び、モムメーティー親王もロッブリーへ敗走した。ブワブッサヤーはティアンと落ち合うために男装してロッブリーへと向かう。しかしモムメーティー親王が即位を宣言して中国系を忌避したため、ティアンは同じ中国系のプラヤーターク伯と挙兵。途中、ルワングチェート男爵の部隊に奇襲されて負傷した。そのときティアンはレーライ死の真相をはじめて知らされた。

ブワブッサヤーがティアンを看病しているあいだに愛が芽生えた。戦乱が終わると、ブワブッサヤーはティアンに自分を愛しているか尋ねるが、ティアンに否定されたため悲しみのあまり川に飛び込み入水自殺を図る。ティアンは慌てて川に潜ってブワブッサヤーの姿を探したが、発見できたのは奴隷の服だけだった。

ブワブッサヤーが水面から顔を上げると、ふたたび現代に戻っていた。

※ 文中の爵位は、宮廷内の力関係をわかりやすく説明するために、アユッタヤー期の貴族階級(全7階級)のうち、上位5つを日本の華族令(1869年)に基づく階級にあてはめています。

■ 第1話の見どころ

1. 王都グルングテープ

ブワブッサヤーは当初、自分が現代の非文明国にいると思い込んでおり、グルンテープ(バンコクのタイ語名称)へ帰して欲しいとしきり懇願する。ところがそこはアユッタヤー朝の王都「『グルングテープ』タワーラーワディースィー『アユッタヤー』」だった。人々はグルングテープにいながらグルングテープへ帰してほしい言うブワブッサヤーを異常者扱いした。

2. 百貨店 The Mall

ブワブッサヤーは、グルングテープは近代的な大都市で The Mall(タイ語ではドァモーンと発音する)というオシャレな百貨店があると説明した。ところが敵国ビルマの部族「モーン」と聞き間違えられてビルマのスパイと疑われた。

3. 仏歴2309年

アユッタヤー王朝が滅亡する1年前。当時の町並みや文化をかいま見ることができる。

4. 貝銭

アユッタヤー時代には、鋳造貨幣ではなく貝殻を加工して作られた貝銭が流通していた。ブワブッサヤーはティアンの邸宅から叩き出されるときに手切れ金としてこれを受け取って仰天した。

役者の質と撮影技術はサイアクだが、ミーハーな現代人が封建時代にタイムスリップするという設定は興味深い。タイ語やタイ文化の変遷について考えるにはもってこいの教材。

ABOUT US

ケイイチ
バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。